AI(人工知能)分野における米中間の覇権争いは、技術開発から膨大な電力確保へと競争の軸足を移しつつある。中国のデジタル技術大手、開域集団(CUE Group)の施侃会長兼CEOは、エネルギー資源で優位に立つロシアが中国と連携することで、米国に対抗する強力なAI推進ブロックを形成する可能性を指摘した。

米中AI競争の均衡と新たな変数

スタンフォード大学の『AI Index Report 2024』によると、中国はAI関連の論文数や特許数、産業用ロボットの設置台数で米国を猛追しており、両国の競争力は拮抗しつつある。米国は依然として影響力の高い特許で優位を保つが、中国の社会実装力は無視できないレベルに達している。

投資額においても、2023年の米国の民間投資額が約679億ドルであるのに対し、中国は政府系ファンドなど非公開の投資を含めると、実態として米国に肉薄していると施氏は分析する。

AIのボトルネックは「電力」

施氏が最も重視するのは、AIの稼働に不可欠なエネルギーだ。AIの高度な演算能力は膨大な電力を消費する。2025年の発電量予測では、中国が約10兆kWhであるのに対し、米国は約4兆kWhにとどまる。特に米国の発電量は過去10年以上ほぼ横ばいで、老朽化した電力網がAIの発展を制約する物理的なボトルネックになるリスクが指摘されている。

ロシアのエネルギーと中国の技術連携

この状況下で、ロシアがAI競争における新たな変数として浮上する。施氏は、安価で豊富なエネルギーを持つロシアが、その資源をデータセンターの動力源に直接転換し、中国の技術エコシステムと連携する戦略を提言した。中露がサプライチェーンで連携すれば、基盤モデルの重複開発といった非効率を避け、ロシアのエネルギーと中国のアルゴリズムを統合できる。これにより、米国の計算資源を凌駕する「中露AIブロック」が形成される可能性があるという。

人材の「頭脳還流」も中国に追い風

かつては米国に一極集中していたAI人材だが、2017年以降の米国の入国規制強化などを背景に、米国で教育を受けたトップクラスの人材が中国などへ流出する「頭脳の還流」が加速している。この現象も、中国の技術力向上を後押しする一因となっている。

日本企業への示唆

中国のAI覇権争いが電力確保に軸足を移していることは、日本の産業界に直接的な影響を与える。第一に、CUE Groupの施侃会長が指摘するように、ロシアの豊富なエネルギーと中国のAI技術が連携する「中露AIブロック」が形成された場合、日本企業はAI関連技術の調達先や協業パートナーの選択肢が限定されるリスクがある。特に、米国のAI民間投資額約679億ドルに対し、中国の非公開投資が肉薄している現状は、このブロックの経済的実力を示唆しており、日本企業が米中露いずれかの陣営に属さざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。

第二に、AIのボトルネックが電力であるという指摘は、日本のエネルギー政策に再考を促す。中国が約10兆kWhの発電量予測に対し、米国が約4兆kWhに留まる状況は、電力供給能力がAI開発の生命線となることを明確に示している。日本は、AI開発を推進する上で、安定した電力供給源の確保と、データセンターなど電力多消費型施設の立地戦略を抜本的に見直す必要がある。再生可能エネルギーの導入加速や、既存電力網の強靭化は喫緊の課題となるだろう。

第三に、AI人材の「頭脳還流」は、日本のAI競争力強化の機会となり得る。米国で教育を受けた優秀な人材が中国へ流れる一方で、日本も独自の魅力や研究環境を整備することで、これらの人材を誘致し、国内のAIエコシステムを活性化できる可能性がある。日本政府や企業は、研究開発資金の拡充、国際共同研究の推進、ビザ要件の緩和など、戦略的な人材誘致策を講じるべきである。