米アップルが、欧州連合(EU)のデジタル市場法(DMA)に基づき、競合であるグーグルのAI機能の開放を求める規制案に反対する姿勢を鮮明にした。アップルは「ユーザーのプライバシーと安全性を著しく脅かす」と警告したしており、ライバルを擁護する異例の行動に出た。この動きの背景には、自社のAI基盤「Apple Intelligence」を中核とするエコシステムを、同様の規制から守りたいという戦略的な思惑があるとみられる。

EU、AndroidのAI機能開放を要求

発端は、EUの執行機関である欧州委員会が2024年4月末、グーグルの基本的にソフト(OS)「Android」において、自社のAI「Gemini」を優先的に扱っていることがDMAに違反する可能性があるとの予備的見解を示したことだ。欧州委は、OpenAIの「ChatGPT」のようなサードパーティ製のAIも、ウェイクワード(起動の合言葉)や物理ボタンの操作で起動でき、ユーザーの明示的な許可を得て画面上の情報を読み取ったり、アプリを横断して操作したりできるよう、システムレベルの権限を開放すべきだと要求している。

これに対しアップルは、EU当局に提示したした文書で、この要求が実現すれば深刻なリスクが生じると強く警鐘を鳴らした。文書では「悪意のあるAI企業が、ユーザーの知らないうちに電子メールを送信したり、商品を注文したりすることが理論上可能になる」と指摘。「ユーザーのプライバシー、セキュリティ、そしてデバイスの完全に性に深刻なリスクをもたらす」と、規制案の再考を促した。

ライバル擁護の裏にある「OSの壁」

アップルがグーグルに助け舟を出すのは、両社が「OSに深く統合されたAI機能の主導権は、OS開発企業自身が握るべきだ」という点で戦略的な利害が一致しているためだ。アップルは2024年6月、独自のAI基盤「Apple Intelligence」を発表したばかりであり、その一部機能にはグーグルのGeminiの技術を採用する計画も報じられている。

もしグーグルがEUの要求を受け入れ、システムレベルのAI機能へのアクセスをサードパーティに開放する前例を作ってしまえば、いずれアップルも自社のiPhoneで同様の対応を迫られる可能性が高い。今回の動きは、表向きはグーグルを擁護する形をとりながら、自社の閉じたAIエコシステムを守るための先手を打ったものと分析できる。巨大ITプラットフォーマーが、規制当局という共通の課題に対抗するため、一時的に協調する構図が浮かび上がる。

AIエージェント開発の主導権争い

このアップルとグーグルの協調姿勢は、スマートフォン上で動作する「AIエージェント」の開発の方向性を左右する大きな分岐点となる可能性がある。AIエージェントには、アプリ側が提供するAPI(データ連携のための仕様)を利用して高度な自動化を実現する「CLI型」と、人間の画面操作を模倣して直接的にアプリを動かす「GUI型」の2つの主要な技術アプローチが存在する。

アップルとグーグルが安全性を盾にシステムレベルのAPI開放を拒み続ければ、サードパーティによるCLI型の高機能エージェント開発は行き詰まる。その結果、中国のByteDanceが開発するAIアシスタント「豆包」のような、画面を直接読み取って操作するGUI型が、OS非依存で動作する唯一の選択肢として浮上しかねない。しかし、このGUI型はユーザーに監視されているような不安感を与えやすく、またアプリ内広告の述べた機会を奪う可能性があるため、アプリ開発者からの反発も招いている。スマホAIの進化は、技術、規制、そしてビジネスモデルの狭間で、難しい舵取りを迫られているのが実情だ。

日本への影響と今後の展望

アップルがEUのAI規制に異例の反論を示したことは、日本企業にとってAI開発の方向性とビジネス戦略を再考する契機となる。第一に、OS主導のAIエコシステムが強化されることで、日本のアプリ開発企業は、OS提供企業が提供するAPIに依存しないGUI型AIエージェントの開発を加速させる必要がある。例えば、中国のByteDanceが開発する「豆包」のような、OS非依存で動作するAIアシスタントは、Apple IntelligenceやGeminiのようなOSに深く統合されたAIに対抗しうる選択肢となる。

第二に、プライバシーとセキュリティを理由にAI機能の開放を拒むアップルの姿勢は、日本企業がAIサービスを開発する上での規制リスクを浮き彫りにする。特に、ユーザーデータを取り扱うAIサービスにおいては、個人情報保護法や各種業界規制への準拠がこれまで以上に重要となる。

第三に、今回の動きは、巨大IT企業が規制当局に対して協調する新たな構図を示唆している。日本政府もAI開発・利用に関する規制の議論を進めており、日本企業は、政府の動向だけでなく、GAFAのようなグローバルプラットフォーマーの戦略的連携にも注視し、自社のAI戦略を柔軟に調整する必要がある。特に、日本独自のAI開発やデータ活用を進める上では、国際的な規制動向と巨大IT企業の動向を複合的に分析し、リスクと機会を特定することが不可欠となる。