中国のIT大手バイドゥ(バイドゥ)は5月1日、長年運用してきた人事等級制度を大幅に刷新し、専門職と管理職の間にあった序列の壁を撤廃した。AI時代に求められる、高度な専門性とリーダーシップを兼ね備えた「複合型人材」の育成を加速させるのが狙いだ。今回の改革は、中国IT業界で激化する人材獲得競争を背景にした動きであり、日本の組織論にも示唆を与えるものとなる。

背景:AI事業への転換と人材獲得競争

バイドゥは近年、AI分野への投資を強化し、収益構造の転換を図っているが、近年の決算では売上高の伸びが鈍化するなど、収益拡大に苦戦している。こうした経営環境下で、同社は「AIの進化に適応し、イノベーションを創出できる人材」の育成を最優先課題と位置づけた。

従来の制度では、技術職(T)や管理職(M)など職種ごとに等級が分かれ、専門職から管理職へのキャリア転換が難しい構造だった。また、技術とビジネスの両面に精通した人材が正当に評価されにくいという課題も浮き彫りになっていたと、中国の複数メディアが報じている。

専門職と管理職を統合、新たな評価体系へ

今回の改革では、管理職から専門職まで全従業員を12段階の統一等級に再編した。これにより、従来の職種ごとの枠組みを取り払い、専門職が管理職へ昇進したり、逆に管理職が高度な専門職としてプロジェクトを牽引したりするなど、流動的なキャリア形成が可能になる。

また、採用基準として「若い精神(Young Mind)」と、物事の本質を深く追求する「第一原理思考(First Principles Thinking)」を掲げ、若手人材の抜擢を明文化した。今年度の夏季インターンシップでは、AI関連職を中心に5000人以上の枠を設け、過去最大規模の採用活動を展開している。

激化するIT業界の人材改革

バイドゥの改革は、中国IT業界全体で進む人事制度改革の一環だ。テンセントAlibabaByteDanceといった大手各社も近年、複雑化した等級制度を簡素化し、部署や職種間の異動を促す改革を急いでいる。

AI技術の進化や新たなビジネスモデルの台頭により、企業間での優秀な人材の争奪戦は激しさを増している。高い専門性とリーダーシップを併せ持つ「希少な人材」をいかに確保し、育成できるかが、今後の企業の成長を左右する最大の鍵となっている。

日本への影響

バイドゥによる人事等級制度の刷新は、日本企業にとって喫緊の課題を突きつける。まず、AI時代に求められる「複合型人材」育成の遅れが、国際競争力低下に直結するリスクがある。バイドゥが従来の職種別等級を12段階に統一し、専門職と管理職の壁を撤廃したことは、技術とビジネス双方に精通した人材を流動的に配置し、イノベーションを加速させる狙いがある。日本企業、特に製造業や金融機関では、依然として職能資格制度が根強く、部門間の壁や専門職のキャリアパスの限定が、複合型人材の育成を阻害している。

次に、若手人材の獲得競争における劣勢が懸念される。バイドゥが「若い精神(Young Mind)」と「第一原理思考(First Principles Thinking)」を採用基準に掲げ、今年度の夏季インターンシップでAI関連職を中心に5000人以上の枠を設けたのは、優秀な若手を取り込むための明確な戦略だ。日本の大手企業は新卒一括採用に偏重し、若手の抜擢や専門性の評価が相対的に遅れる傾向にある。このままでは、AI分野で世界をリードする中国企業に、優秀な日本人材が流出する可能性も否定できない。

最後に、日本企業は、AI技術の進化に伴う事業構造の変化に対応できる人材戦略への転換が急務である。バイドゥが売上高の伸び悩みという経営課題に直面しながらも、人材戦略を最優先とした背景には、AIが事業の根幹を成すという認識がある。日本の多くの企業は、AI導入を部分的な効率化と捉えがちだが、バイドゥの事例は、AIが企業成長のドライバーとなる時代において、人材戦略こそが競争優位の源泉であることを示唆している。