中国のテック大手ByteDanceが、同社の生成AI「豆包(Doubao)」の有料プランを発表した。これまで無料での利用者獲得競争が続いてきた中国の大規模言語モデル(LLM)市場で、最大手が収益化に踏み切ったことで、業界は転換点を迎える可能性がある。巨額の先行投資に苦しむAlibabaやテンセントなど競合他社も、追随を迫られる見通しだ。
ByteDance、月額1400円から有料化
ByteDanceは5月4日、生成AI「豆包」のアプリストアで有料プランを公開した。価格は月額68元(約1400円)の標準版から、最高で年額5088元(約10万7000円)のプロ版まで3段階が設定された。同社は「付加価値サービスの模索」としており、基本的に的な機能は引き続き無料で提供する。
この背景には、AI事業の巨額なコスト負担がある。同社は2024年に1600億元(約3兆4000億円)以上の資本支出を計画しており、そのうち850億元(約1兆8000億円)がAI半導体の購入に充てられる見込みだ。純利益が前年比で70%以上減少するなかでの決定で、事業の採算性確保が急務となっていた。
圧倒的な利用者数が武器に
中国のLLM市場は過去3年間、「先に有料化すれば利用者を失い、後手に回れば赤字が膨らむ」という消耗戦が続いていた。かつてバイドゥの「文心一言(ERNIE Bot)」は早期の有料化で利用者獲得の好機を逃したとされる。
今回ByteDanceが先陣を切れたのは、圧倒的な利用者基盤があるためだ。調査会社QuestMobileによると、2024年3月時点の「豆包」の月間アクティブユーザー(MAU)は3億4500万人に達し、Alibabaの「千問(Qwen)」(1億6600万人)とスタートアップDeepSeek(1億2700万人)の合計を上回る。この規模が、一部の利用者離反を許容しつつ商業化を進める体力を与えたとみられる。
競争の軸は「B2B」と「クラウド」へ
「豆包」の有料化は、競合他社に「なぜ無料を続けるのか」という説明責任を迫る。これにより、市場の競争軸は利用者数から持続可能なビジネスモデルへと移行し始めた。ByteDanceは、法人向け(BtoB)でも布石を打っている。傘下のクラウドサービス「Volcano Engine」を通じ、自社のAI技術をAPIとして外部企業に提供。調査会社IDCによれば、2023年下半期の中国パブリッククラウドにおけるLLM利用量で、同社は49.2%と約半分のシェアを握ったと報じられている。
一方、AlibabaもAIとクラウド事業の融合を急ぐ。同社のAI関連収入は10四半期連続で3桁成長を記録しており、同社の呉泳銘(エディー・ウー)CEOは「5年以内にAIとクラウド事業で年間1000億ドルの収入を目指す」と目標を掲げている。今後は各社のクラウド事業を舞台とした収益化競争が激化する見通しだ。
日本企業への示唆
ByteDanceの「豆包」有料化は、日本企業にとって中国市場におけるAI活用戦略の再考を迫る。まず、日本企業が中国市場で生成AIサービスを導入する際、これまでのような「無料」前提の利用は難しくなる。特に、ByteDanceが2024年にAI半導体購入に850億元(約1兆8000億円)を投じる計画であることからも、AI利用コストの増加は避けられない。これにより、日本企業は中国でのAI導入コストを事前に精査し、投資対効果をより厳しく評価する必要がある。
次に、BtoB分野での競争激化は、日本企業のサプライチェーンやビジネスパートナー選定に影響を与える可能性がある。ByteDance傘下の「Volcano Engine」が2023年下半期の中国パブリッククラウドにおけるLLM利用量で49.2%のシェアを占めていることから、中国市場でAIを活用したサービスを展開する日本企業は、同社の技術基盤への依存度が高まるリスクがある。これは、技術仕様の変更や料金体系の変動が、日本企業の事業継続性に直接的な影響を及ぼす可能性を意味する。
最後に、AlibabaがAIとクラウド事業で年間1000億ドルの収入を目指すなど、中国テック大手がAIを基軸とした収益化を加速させる中で、日本企業は中国市場での競争優位性を確保するため、自社のAI戦略をより明確にする必要がある。単なるAIツールの導入に留まらず、中国のAIエコシステムの中でいかに独自の価値を提供できるかが問われる。