元ハーバード大学教授でナノテクノロジーの世界的権威であるチャールズ・リーバー(Charles Lieber)氏が、米国での有罪判決後、中国・深圳で脳とコンピューターを繋ぐ「脳・コンピューター・インターフェース(BCI)」の研究を再開した。米中間の技術覇権争いが激化する中、世界トップクラスの頭脳流出は米国の安全保障上の懸念を呼び、波紋を広げている。

有罪判決を経て中国へ、世界的研究者が再起

ロイター通信が4月30日に報じたところによると、リーバー氏(67)は2023年に中国へ移住し、清華大学の教授および深圳医学科学院の研究員として自身の研究室を再建した。同氏は2020年、中国の海外人材招致プログラム「千人計画」への関与を隠し、米連邦捜査局(FBI)に虚偽の申告をした罪などで訴追され、2021年に有罪判決を受けていた。新天地では研究への強い意欲を示しているという。

中国の国家戦略とBCIの軍事転用リスク

リーバー氏が専門とするBCIは、脳信号で外部機器を操作する革新技術だ。麻痺患者の機能回復など医療応用が期待される一方、兵士の認知能力を強化する「スーパーソルジャー」開発といった軍事転用の可能性も指摘されている。中国政府はこの分野を国家的な重点戦略に掲げ、研究開発を加速させている。リーバー氏の中国移籍は、米国の技術的優位性を脅かす事態として、米国内で警戒感が高まっている。

深圳医学科学院、世界トップの「頭脳獲得」拠点に

リーバー氏が所属する深圳医学科学院(Shenzhen Medical Academy of Research and Translation, SMART)は2023年に設立された新興の研究機関である。同氏が創設した研究所「i-BRAIN」では、ハーバード大学時代には利用できなかった専用の製造装置や、霊長類を用いた実験も可能な、米国以上に潤沢な研究環境が提供されている模様だ。同科学院では、プリンストン大学から帰国した著名な構造生物学者、顔寧(Yan Ning)氏が院長を務めるなど、海外からのトップ研究者の招聘が相次いでいる。

まとめ:日本への示唆

チャールズ・リーバー氏の中国・深圳でのBCI研究再開は、日本企業に複数の直接的な影響を及ぼす。第一に、BCI技術の軍事転用リスクは、日本の安全保障政策に新たな課題を突きつける。中国がリーバー氏のような世界的研究者を招聘し、深圳医学科学院(SMART)で「ハーバード大学時代には利用できなかった専用の製造装置」や「霊長類を用いた実験も可能な」環境を提供している事実は、中国がこの分野で圧倒的な優位を築きつつあることを示唆する。これは、日本の防衛関連企業や研究機関が、BCI技術の二重用途性に対する警戒を強め、関連技術の輸出管理や共同研究のあり方を再検討する必要があることを意味する。

第二に、中国がSMARTにプリンストン大学から帰国した顔寧氏のようなトップ研究者を招聘していることは、先端技術分野における人材獲得競争の激化を浮き彫りにする。日本の大学や研究機関は、中国の潤沢な研究資金と設備、そして高い研究自由度を背景にした国際的な人材引き抜きに対し、より魅力的な研究環境やキャリアパスを提供する必要に迫られる。特に、BCIのような次世代技術分野では、優秀な日本人研究者が中国へ流出するリスクも高まる。

第三に、BCI技術の民間応用、特に医療分野での進展は、日本の医療機器メーカーやヘルスケア企業にとって新たな競争環境を生み出す。中国が国家戦略としてBCI研究を加速させることで、将来的には低コストで高性能なBCI関連製品が市場に投入される可能性がある。日本の企業は、この技術革新の波に乗り遅れないよう、BCI関連技術への投資を加速させるとともに、中国市場での競争激化に備える必要がある。