中国の国家発展改革委員会 (NDRC) や国家能源局 (NEA) など4つの主要官庁は5月中旬、人工知能 (AI) 産業の発展と国家エネルギー戦略を一体で推進する包括的な行動計画を発表した。生成AIの普及で急増する計算能力インフラの電力需要を、国内の豊富な再生可能エネルギーで賄う「算電協同 (計算能力と電力の協調)」を国家レベルで推進する。2030年までにAI関連のエネルギー技術で世界をリードする目標を掲げており、デジタル覇権とエネルギー安全保障の同時に達成を目指すこの動きは、世界のデータセンター立地戦略や関連産業の競争環境に影響を及ぼす可能性がある。
AIと電力の協調「算電協同」、4省庁が一体推進
今回発表された「人工知能とエネルギーの双方向エンパワーメント促進に関する行動計画」は、経済政策の司令塔である国家発展改革委員会、エネルギー政策を司る国家能源局、産業政策を担う工業情報化部 (MIIT)、そして2023年に新設されたデジタル戦略の中核である国家データ局 (National Data Administration) が連名で通達した。計画経済からデジタル戦略までを統括する中枢機関が一体となり、AIとエネルギーという国家の根幹をなす2分野の融合を強力に推し進める姿勢を鮮明にした。
新華社通信が報じた計画の骨子によると、中国は2段階の目標を設定している。まず2027年までに、AIの発展を支える「安全、グリーン、経済的」なエネルギー供給システムを初歩的に構築する。具体的には、データセンターなど計算能力インフラとクリーンエネルギー発電所の連携能力を大幅に引き上げる。さらに2030年までには、AI計算能力インフラへのクリーンエネルギー供給能力や、エネルギー分野におけるAIの応用技術で「世界トップレベル」に到達することを目指す。
計画の核心は「算電協同」という概念だ。これは、電力消費地であるデータセンターを、発電地、特に太陽光や風力が豊富な内陸部に戦略的に配置し、エネルギーの地産地消を促す構想である。具体策として、大規模な再生可能エネルギー基地の計画と国家レベルの計算能力ハブの建設計画を連携させ、原子力や水素エネルギーによるデータセンターへの直接電力供給も模索するとしている。これにより、送電ロスを減らし、エネルギーコストを抜本的に引き下げる狙いがある。
電力危機と「東数西算」プロジェクトの延長線
この国家戦略は、近年の中国が直面してきた課題への解答でもある。背景には、深刻な電力不足の経験と、それに続く国家プロジェクトの存在がある。
中国では2021年夏、製造業が集積する広東省などで大規模な電力不足が発生し、工場の操業停止が相次いだ。この経験は、経済成長を支えるエネルギー供給の脆弱性を露呈させ、エネルギー安全保障を国家の最優先課題へと押し上げた。
この危機感を背景に、中国政府は2022年2月に国家プロジェクト「東数西算」を本格的に始動させた。これは「東部のデータ (数) を西部で計算 (算) する」という意味で、データ処理需要が集中する沿海部から、再生可能エネルギー資源が豊富な西部・内陸部へデータセンター機能を移転させる巨大インフラ計画だ。総額数兆元 (数十兆円) 規模の投資が見込まれ、すでに8つの国家計算能力ハブと10のデータセンタークラスターの建設が進んでいる。今回の行動計画は、この「東数西算」をAI時代に合わせてさらに進化させるものと位置づけられる。
さらに、2023年からの生成AIブームがこの動きを決定的に加速させた。業界アナリストの推定では、中国のデータセンター市場は年率25%以上の成長を続け、その電力消費量は2030年までに中国全体の5%以上に達すると予測される。バイドゥ (Baidu) やAlibaba (Alibaba) などが大規模言語モデルの開発競争を繰り広げる中、計算能力の確保はAI覇権の〜しなければならない条件となり、その計算能力を支える電力の安定供給が死活問題となっている。
エネルギー安保とデジタル覇権、米中競争下の国家戦略
今回の行動計画は、単なるエネルギー政策やIT政策の枠を超え、米中技術覇権競争をにらんだ中国の国家安全保障戦略そのものと分析できる。米国による先端半導体への輸出規制強化で、中国は高性能GPUの調達に困難を抱えている。このハードウェアの劣勢を、ソフトウェアとインフラで挽回しようという意図がうかがえる。
観測筋の見方では、中国は安価で潤沢なグリーン電力を計算能力インフラに投入することで、「コンピュートのコストパフォーマンス」で優位に立とうとしている。仮に個々の半導体の性能で劣っても、膨大な数の計算資源を低コストで稼働させられれば、AIモデルの開発・運用競争で米国に対抗できるという計算だ。データセンターをエネルギー需給調整のバッファーとして活用する「仮想発電所 (VPP)」のような構想も含まれており、AIでエネルギー網を最適化し、エネルギー網でAI開発を支えるエコシステムの構築を目指している。
これは、習近平政権が推進する「双循環 (国内大循環を主体とし、国内と国際の双循環が相互に促進しあう新たな発展の枠組み)」戦略とも密接に連動する。国内のエネルギー資源とデジタル資源を最大限に活用して内需主導のAI産業エコシステムを確立し、外部環境の変化に強い経済構造を構築する。エネルギー安全保障とデジタル主権を同時に確保する、複合的な国家戦略と言えるだろう。
日本の関連性
中国が「算電協同」を国家戦略として推進することは、日本企業に対し、特にデータセンター関連産業において新たなリスクと機会をもたらす。まず、中国が2030年までにAI関連のエネルギー技術で「世界トップレベル」を目指す目標は、日本が強みを持つ省エネ技術や再エネ関連部品のサプライチェーンに影響を与える可能性がある。中国が国内で完結するサプライチェーンを構築し、データセンターの立地と再エネ発電所を一体化させることで、日本からの部品輸出機会が減少するリスクがある。
一方で、この動きは日本企業にとって新たなビジネスチャンスも生み出す。中国が原子力や水素エネルギーによるデータセンターへの直接電力供給を模索している点は注目に値する。日本の原子力技術や水素関連技術は世界的に見ても高く、中国の「算電協同」戦略におけるクリーンエネルギー供給源として、技術提携や共同開発の余地が生まれる可能性がある。
また、中国の「東数西算」プロジェクトの延長線上にある今回の戦略は、データセンターの分散化と再エネ連携が世界のトレンドとなる可能性を示唆している。日本企業は、このトレンドを先取りし、データセンターのエネルギー効率化や、VPP(仮想発電所)のようなエネルギーマネジメント技術を強化することで、国際競争力を高めることができる。例えば、中国のBaiduやAlibabaといった大手IT企業が、自社のデータセンターのエネルギー効率化を追求する中で、日本の省エネ技術や冷却技術への需要が高まる可能性も考えられる。
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