中国の国家発展改革委員会(NDRC)は、米メタによるAIスタートアップ企業「Manus」の買収について、国家安全保障上のリスクを理由に禁止する決定を下した。関係当事者に対し、買収取引を撤回するよう求めている。この決定は、中国発のAI技術が海外へ流出することへの当局の強い警戒感を浮き彫りにした。
**約3000億円**の買収劇
昨年12月、米メタはAIスタートアップ企業Manusの買収完了を発表した。この取引はメタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が主導し、わずか10日余りで約20億ドル(約3000億円)で合意に至ったと報じられている。
Manusは、中国のチーム「Monica」によって開発され、発表された世界初の汎用型AIエージェントだ。発表直後からインターネット上で大きな話題となり、公開から4時間で公式サイトのアクセス数が1000万件を突破。招待コードが1万元(約20万円)以上で転売されるほどの人気を集め、AI業界の「ダークホース」と目されていた。
この製品は、ユーザーの指示を複数のタスクに分解し、それぞれ異なるサブエージェントやツールを呼び出して実行する能力を持つ。これは、単一の大規模言語モデル(LLM)が画像や文章を生成するのとは異なり、AIエージェントとLLMの違いを明確に示したものとして注目された。
技術流出への懸念と調査
Manusは中国のチームが開発し、北京や武漢に研究開発拠点を置いていた。しかし、設立からわずか9カ月後に本社をシンガポールへ移転し、外資による買収を受け入れた。この動きは、中核技術の海外移転を意図しているのではないかとの疑念を招いた。
これを受け、中国の関係当局は今年1月、同買収が輸出管理や技術輸出入に関する法規制に適合するかどうかの全面的な評価を行うため、調査を開始したと新華社通信は伝えている。
禁止決定の背景
今回の禁止決定は、論争の的となっていた買収に終止符を打つものだ。Manusは昨年5月のグローバル登録開始時に中国語版を提供せず、海外の電話番号認証をしなければならないとするなど、中国市場から距離を置く姿勢を見せていた。こうした一連の行動が、国内ユーザーの失望を招いていた。
また、AlibabaのLLM「Qwen(通義千問)(Qwen)」チームとの戦略的提携も発表されたが、具体的な製品化には至らなかった。昨年7月には中国事業の縮小とシンガポールへの移転が報じられ、公式SNSアカウントも削除されるなど、中国市場からの撤退を示唆する動きが続いていた。
今回の決定は、AI企業に対し、国家の技術安全保障に関わる「レッドライン」を厳守し、輸出管理などの関連法規を遵守することの重要性を改めて示すものとなる。
日本にとっての意味
中国当局による米メタのAIスタートアップManus買収禁止は、日本企業にとってAI分野における中国市場の特殊性を再認識させる。まず、約20億ドル(約3000億円)という巨額買収を国家安全保障を理由に阻止したことは、中国がAI技術を戦略的資産と見なし、その海外流出に極めて強い警戒感を抱いている証左だ。これは、日本企業が中国のAIスタートアップへの投資や提携を検討する際、技術の「中国発」か「外資系」かといった出自や、研究開発拠点の所在地が、予期せぬ規制リスクに直結する可能性を示唆する。
次に、Manusが「招待コードが1万元(約20万円)以上で転売されるほどの人気」を博したにもかかわらず、中国市場から距離を置く姿勢が当局の疑念を招いた点は、日本企業が中国でAI関連事業を展開する際の留意点となる。中国市場での成功を目指すなら、単なる技術提供に留まらず、現地の法規制や文化、政府の意向を深く理解し、それらに沿った事業戦略を構築する必要がある。例えば、AlibabaのLLM「Qwen」との提携が製品化に至らなかった事例は、中国企業との協業においても、当局の意向が最終的な事業展開に影響を与えうることを示している。
最後に、今回の決定は、中国がAI技術を巡る「レッドライン」を明確に引き、輸出管理法などの関連法規の遵守を厳格に求めていることを浮き彫りにした。日本企業が中国のAI技術や人材を活用する際、意図せずとも技術流出や国家安全保障上の問題に巻き込まれるリスクがあるため、デューデリジェンスの強化と、中国のAI関連規制動向への継続的な監視が不可欠となる。