中国の最高人民法院は、2024年における民事執行の回収額が約2.2兆元(約48兆円)に達したと発表した。社会信用システムと連動した取り組みを強化しており、同年に新たに233.98万人が「信用失墜者リスト」に登録される一方、266.96万人が信用を回復し市場に復帰した。
信用システムと連動した民事執行
中国では、裁判所の判決などを履行しない個人や企業を「信用失墜者リスト」に登録する制度が運用されている。リストに掲載されると、航空機や高速鉄道の利用、金融機関からの融資、不動産の購入などが制限される。最高人民法院によると、この制度が債務の履行を促す重要な役割を果たしているという。
2024年の民事裁判における任意履行率は61.01%に達し、前年から2.7ポイント上昇した。司法当局は、信用回復の仕組みも整備しており、債務を履行した個人や企業が再び経済活動に参加する道も開かれている。
執行制度の強化と課題
一方で、強制執行の申立件数は前年比で15.43%増加しており、司法現場の負担は増している。2024年の強制執行における回収達成率(何らかの財産差し押さえ等に至った割合)は50.59%、手続き完了率は39.29%だった。債権回収額は3年連続で2兆元を超え、高水準で推移している。
2025年6月、最高人民法院は最高人民検察院、公安部と共同で通達を出し、財産隠しなどの悪質な執行逃れに対して刑事責任を追及するなど、取り締まりを一層強化する方針を明確にした。これは、司法の権威を確保し、当事者の正当な権利利益を保護する狙いがある。
難航事件への新たな取り組み
最高人民法院執行局の黄文俊局長は、解決が困難な事件への対策として「管轄を超えた協力執行(クロス執行)」を推進していると述べた。これは、地元のしがらみなどが影響しかねない事件について、別の地域の裁判所が執行を担当する制度だ。
最高人民法院の発表によれば、2023年10月以降、全国の裁判所はこの制度を用いて47.7万件の協力執行を実施。これにより、22.25万件の難航事件で実質的な進展が見られ、回収額は1668.82億元に上った。当局は今後もこの取り組みを拡大し、執行の効率と公平性を高める構えだ。
日本の関連性
中国の民事執行強化は、日本企業にとって事業環境の透明性とリスク管理の重要性を高める。約2.2兆元(約48兆円)という巨額の回収実績は、中国司法当局が債権回収に本腰を入れている証左であり、日本企業が中国事業で債権を抱えた際の回収可能性が向上する側面がある。例えば、中国企業に対する売掛金や貸付金が焦げ付いた場合、従来の回収困難な状況から、司法を通じた回収の道筋がより明確になる可能性がある。
一方で、「信用失墜者リスト」に年間233.98万人もの個人・企業が登録される現実は、取引先の信用リスクを慎重に見極める必要性を示唆する。日本企業が中国企業と新規取引を開始する際、相手がリストに掲載されていないか、あるいは過去に掲載歴がないかなど、取引先の信用状況を事前に徹底的に調査するデューデリジェンスの重要性が増す。特に、サプライチェーンに組み込まれる中小企業の場合、予期せぬ信用失墜がサプライチェーン全体に影響を及ぼすリスクも考慮すべきだ。
また、悪質な執行逃れに対する刑事責任追及の強化は、日本企業が中国で事業を展開する上で、コンプライアンス体制の再確認を促す。中国子会社や合弁会社の現地従業員が、債務逃れに関与するような不正行為を行った場合、日本企業本体にもレピュテーションリスクや法的リスクが及ぶ可能性があるため、内部統制の強化が不可欠である。これらの動向は、中国市場におけるビジネスの「ルール」がより厳格化していることを示しており、日本企業はこれに適応した戦略を構築する必要がある。