中国の大手国有電力会社である中国華電集団の江毅会長は、2024年3月に開催された全国両会(全国人民代表大会・中国人民政治協商会議)で、中国のエネルギー安全保障とカーボンニュートラル目標の達成に向けた「新型電力システム」の構築に関する提言を発表した。再生可能エネルギーの導入拡大に伴う出力変動に対応するため、全国統一の電力市場創設や、蓄電技術を含む技術革新を加速させる必要性を強調した。
なぜ今、重要か
中国は世界最大のエネルギー消費国であり、電力システムの安定は国家の最重要課題だ。国家能源局によると、2023年末時点で中国の総発電設備容量は29.2億kWに達し、そのうち風力や太陽光などの再生可能エネルギー設備は15.16億kWと初めて50%を超えた。しかし、再生可能エネルギーは天候に左右され出力が不安定なため、電力系統全体の安定性をいかに確保するかが喫緊の課題となっている。2021年に発生した大規模な電力不足は、石炭火力への依存と硬直的な電力システムの脆弱性を露呈させ、今回の提言の背景にある。
この動きは、中国が掲げる「双炭」目標(2030年までのCO2排出量ピークアウト、2060年までのカーボンニュートラル)達成への強い意志の表れでもある。再生可能エネルギーを主力電源化していくためには、供給、技術、市場の各側面からシステム全体を再設計する必要があり、今回の提言はその具体的な道筋を示すものとして注目される。
提言の3本柱:供給・技術・市場の一体改革
江毅会長は、新型電力システムの構築は単なるエネルギー源の置き換えではなく、理念、技術、メカニズムの全面的な革新だと指摘。提言では、成功への道筋として以下の3つの柱を挙げた。
- 多エネルギー源の協調供給: 風力や太陽光発電といった再生可能エネルギーの質の高い開発を推進すると同時にに、石炭火力などの従来型エネルギーをピーク対応電源として柔軟に活用し、両者の連携を強化する。
- 企業主導の技術革新: 企業が技術革新の主体となる環境を整備し、産学官連携による共同イノベーションを推進する。特に、中国華電集団のような大手国有企業が研究開発で主導的な役割を果たすべきだとした。
- 市場メカニズムの構築: 全国統一の電力市場の構築を加速させ、価格メカニズムを通じて再生可能エネルギーの効率的な利用と投資を促す。
鍵となる全国統一電力市場
提言の中で特に重要なのが、市場メカニズムの改革だ。江会長は、全国統一の電力市場の構築を加速させ、再生可能エネルギーが効率的に取引・利用される政策メカニズムの確立が不可欠だと述べた。新華社通信によると、会長は「市場システムの整備を通じて電力システム全体の投資・運用効率を高め、質の高い再生可能エネルギー開発を促進することが重要だ」と語ったという。
これは、地域ごとに分断されている電力市場を統合し、需給バランスに応じて価格が変動する柔軟な市場を創設することを意味する。これにより、電力が余っている地域から不足している地域へ効率的に送電したり、蓄電池の充放電を最適化したりすることが可能になる。エネルギー分野のサプライチェーン全体での連携を深化させ、各主体が持つ資源、技術、資金などの強みを発揮できる環境を目指す。
技術解説:変動する再エネをどう安定化させるか
新型電力システムの実現には、再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、系統を安定化させる技術が不可欠だ。中国が注力する主に技術は以下の通りである。
- UHV(超高圧)送電網: 中国西部には豊富な再生可能エネルギー資源がある一方、電力需要は東部の沿岸地域に集中している。この距離のギャップを埋めるのが、国家電網公司が推進する800kVから1000kV級の超高圧送電網だ。送電ロスを最小限に抑え、大陸規模での電力融通を可能にする基幹インフラである。
- 大規模蓄電システム: 出力変動を吸収する最も直接的な手段が蓄電池だ。現在主流となっているのは、安全性と長寿命に優れるLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池で、サイクル寿命は6,000回を超える製品も登場している。CATLやBYDといった世界的な電池メーカーが国内におり、その製造コストは100ドル/kWhに迫りつつある。さらに、資源的な制約が少ないナトリウムイオン電池の実証プロジェクトも各地で始まっている。
- スマートグリッドとエネルギー管理: AIやIoTを活用し、電力の需要をと供給をリアルタイムで最適化するスマートグリッド技術も重要だ。各家庭や工場の電力使用状況を予測し、デマンドレスポンス(需要応答)を促したり、分散型電源を束ねて一つの発電所のように機能させる仮想発電所(VPP)を構築したりする取り組みが進められている。
日本への影響と示唆
中国華電集団の提言は、日本のエネルギー関連企業にとって具体的な事業機会とリスクをもたらす。まず、全国統一電力市場の創設は、中国の電力システム全体を対象とした大規模な投資・運用効率化を意味し、スマートグリッドや蓄電池技術を持つ日本企業には大きなビジネスチャンスとなる。特に、中国華電のような大手国有企業が技術革新の主体となる方針は、共同イノベーションの余地を示唆しており、東芝や三菱電機といった重電メーカーは、中国市場への技術供与や共同開発の可能性を探るべきだ。
次に、「ダブルカーボン」目標達成に向けた多エネルギー源の協調は、日本の再生可能エネルギー関連技術、特に高効率な風力・水力発電技術や、それらを統合するシステム技術の需要を高める。中国が新エネルギーの質の高い開発を推進する中で、日本のサプライヤーは、単なる部品供給に留まらず、システム全体の最適化に貢献できるソリューションを提案することで、競争優位を確立できる。
一方で、中国国内企業、特に中国華電のような国有企業が主導権を握る構図は、外資系企業にとって参入障壁となる可能性も孕む。技術移転や合弁事業の形態を慎重に検討し、中国側のニーズに合致した形で協業を進める必要がある。また、全国統一市場の創設は、価格競争の激化を招く可能性があり、日本のサプライヤーはコスト競争力強化にも注力すべきだ。