欧州のビジネススクールの教授が、長年の中国観察から同国のイノベーションの源泉を分析した。かつてBYDの新型バッテリーが釘を刺されても発火しない様子に衝撃を受けた経験から、中国が技術の「フォロワー」から「リーダー」へ変貌した背景に、国民の挑戦的な気質と政府の長期戦略「新たな質の生産力」があると指摘する。

「何でも可能」と信じる国民性

BIノルウェー・ビジネススクールの戦略学教授は、年に5回以上中国を訪れるという。中国の技術動向に注目し、中国人と協力する理由を問われると、決まって次のように語る。「私が知る中国人の多くは、根底に『何事も可能だ』という信念を持ち、常に新しい物事の探求や高い目標の追求を恐れない」。

同教授は、この先駆者となることを恐れず着実に実行する力強さが、中国がわずか数十年で多くの先端分野のリーダーへと転換を遂げた重要な原動力の一つだと分析する。

国家戦略「新たな質の生産力」

個人の気質だけでなく、国家レベルの戦略も重要な役割を果たしている。中国の第15次五カ年計画(2026〜2030年)の策定準備では、「新たな質の生産力(新質生産力)」の発展が打ち出された。

同教授はこれを、イノベーションによって質の高い発展を実現するための、先見性のある戦略だと評価する。同計画では、量子技術、バイオ製造、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)エンボディドAI(Embodied AI)、第6世代移動通信システム(6G)などを未来の重点分野と位置づけている。こうした未来志向の取り組みが、独創的で破壊的なイノベーションを生む土壌を育んでいると指摘する。

新エネ車とAIにみる成功事例

この戦略の成功例が、新エネルギー車(NEV)産業だ。15年前、中国が世界をリードするNEV生産国になると予測した者はいなかった。しかし、ある報道によると、2023年には生産・販売台数で9年連続世界一の座を維持し、2025年には1600万台に達して11年連続で世界一を維持する見通しだ。

BYDに代表される中国メーカーは、今や高性能でコストパフォーマンスに優れた製品を世界に供給している。AI分野でも中国企業の活用は著しい。デザインや香水の推薦、さらにはUnitree RoboticsUnitree(宇樹科学技術))の人型ロボットとのボクシング練習など、AIはすでに多様な産業でイノベーションの駆動力となっている。これらの成果は、長期的な自主開発と研究開発投資の結果である。

日本の関連性

中国のイノベーションが「国民性」と「国家戦略」に根差すという分析は、日本企業にとって事業戦略の見直しを迫る。まず、BYDのNEVが2023年に生産・販売台数で9年連続世界一を維持し、2025年には1600万台に達する見込みである事実は、単なる市場規模の拡大ではない。中国市場における技術革新のスピードと、それが世界市場に与える影響を日本企業が過小評価していた可能性を示唆している。特に、日本の自動車産業は、中国NEVメーカーのコスト競争力と技術革新の速さに直面しており、バッテリー技術やAI統合における差別化戦略が急務となる。

次に、「新たな質の生産力」戦略が掲げる量子技術やブレイン・マシン・インターフェース(BMI)、エンボディドAIといった未来技術分野は、日本の技術開発ロードマップに直接的な影響を与える。例えば、Unitree Roboticsのような企業が人型ロボットを実用化している現状は、日本のロボット産業が持つ優位性が脅かされる可能性を示している。日本企業は、これらの先端分野における中国の動向を注視するだけでなく、共同研究開発やM&Aを通じた技術獲得、あるいはニッチな高付加価値分野への特化を検討する必要がある。

最後に、「何事も可能」と信じる中国人の気質は、日本企業が中国市場で事業を展開する上で、従来の慎重なアプローチでは機会損失を招くリスクがある。中国企業との協業においては、迅速な意思決定とリスクテイクを厭わない姿勢が求められ、日本企業内での組織文化の変革も視野に入れるべきである。