中国国営の新華社通信は2024年5月2日、極東国際軍事裁判(東京裁判)の開廷80年に合わせ、「歴史の判決は覆せない」と題する論評を発表した。論評は、同裁判を日本の侵略戦争を断罪したものだと位置付け、近年の日本国内における歴史修正主義的な動きを「軍国主義の亡霊」と表現し、強く非難した。
東京裁判を「歴史的な審判」と位置付け
新華社の論評は、1946年5月3日に始まった東京裁判を、日本の侵略戦争を断罪した「歴史的な審判」だと明確に位置付けている。裁判は中国、ソ連、米国、イギリスなど11カ国が参加し、2年半をかけて東条英機元首相らA級戦犯7人に死刑、16人に終身刑を言い渡した。論評は、この裁判が日本の軍国主義による罪を「歴史に刻んだ」と指摘した。
また、東京裁判はニュルンベルク裁判と共に、侵略戦争が国際法上の犯罪であるという原則を確立したと主張。カイロ宣言やポツダム宣言と並び、戦後国際秩序の法的・道義的基盤を形成したと論じている。当時、中国代表判事を務めた梅汝璈氏の「過去の苦難を忘れることは、未来の災禍を招くかもしれない」という言葉を引用し、歴史の教訓を忘れてはならないと警鐘を鳴らした。
日本の歴史修正主義を「亡霊」と批判
一方で論評は、開廷から80年が経過した現在も「日本の軍国主義の亡霊がさまよっている」と強い警戒感を示した。日本の右翼勢力による「東京裁判無効論」や、一部政治家による靖国神社参拝が後を絶たない点を厳しく批判。これらの動きは、東京裁判の判断と世界の平和に対する挑戦だと断じている。
同通信は、具体的に以下の点を問題視している。
- 歴史教科書: 「南京大虐殺」を「南京事件」と矮小化するなどの記述
- 用語の削除: 「慰安婦」や「強制連行」といった用語を削除する動き
- 靖国神社参拝: A級戦犯が合祀されている靖国神社への参拝
この論評は、歴史認識を巡る中国の揺るぎない立場を改めて示すものだ。新華社通信が伝えたように、日本の防衛政策の転換なども背景に、中国が日本への警戒感をあらわにした形だ。
日本の関連性
新華社が東京裁判開廷80年に際し、日本の歴史修正主義を「軍国主義の亡霊」と批判したことは、日本にとって複数の具体的な影響と示唆をもたらす。
第一に、中国は日本の防衛政策転換を強く牽制する意図がある。論評が日本の防衛政策の転換を背景にしていると明記していることから、日本の防衛力強化や日米同盟の深化に対し、歴史認識問題を外交カードとして利用する可能性が高い。これは、日本の安全保障政策の自由度を制約しようとする動きであり、特に米国との防衛協力において、中国からの歴史問題を用いた牽制が頻発するリスクがある。
第二に、日本企業は中国市場におけるブランドイメージや事業展開に悪影響を受ける可能性がある。新華社が「南京大虐殺」を「南京事件」と矮小化する歴史教科書の記述や、「慰安婦」「強制連行」といった用語の削除を問題視しているように、中国国内の対日感情が悪化すれば、日本製品の不買運動や日本企業に対する風当たりが強まる事態も想定される。特に、中国の消費者向けビジネスを展開する企業は、予期せぬリスクに直面する可能性がある。
第三に、歴史認識を巡る国際的な議論において、日本が孤立するリスクがある。東京裁判には中国、ソ連、米国、イギリスなど11カ国が参加し、A級戦犯7人に死刑を言い渡したという事実を新華社が強調しているように、中国は国際社会における歴史認識の「正統性」を主張している。日本が歴史修正主義と批判される動きを続ければ、国際社会、特にアジア諸国からの理解を得にくくなり、外交上の課題が増大するだろう。