中国の国会に相当する第14期全国人民代表大会(全人代)第2回会議が3月5日、北京の人民大会堂で開幕した。習近平国家主席ら党・国家の最高指導部が出席する中、李強総理が政府活動報告を行った。不動産市場の低迷やデフレ圧力、地方政府の債務問題など、中国経済が内外の複雑な課題に直面する中、今年の経済成長目標や重点政策が示される全人代の動向は、世界の投資家や日本企業から極めて高い注目を集めている。

全人代開幕:重要政策を決める年次総会

全国人民代表大会(全人代)は、憲法上、中国の最高国家権力機関と位置づけられ、毎年3月上旬に開催される。約3000人の代表が全国から集まり、政府活動報告の審議・承認、国家予算案の採択、重要法案の審議などを行う。実質的には中国共産党が事前に決定した方針を追認する場としての性格が強いが、この場で発表される政府活動報告は、その年の経済運営の基本的に方針や具体的な数値目標を内外に示すものであり、中国の政策の方向性を読み解く上で最も重要な機会となる。今年も習近平国家主席をはじめ、李強総理、王沪寧全国政治協商会議主席、蔡奇党中央書記局書記ら、党の最高指導部である政治局常務委員が全員出席し、党による指導体制の結束を改めて誇示した。

政府活動報告の要点:2023年の総括と2024年の目標

李強総理は政府活動報告の中で、まず2023年の経済社会の動向を総括した。報告では、国内外の深刻かつ複雑な情勢の変化に直面しながらも、党中央の指導の下で全国の人民が団結し、困難を乗り越えて経済回復を成し遂げ、年間の主要目標を達成したと強調された。これは、ゼロコロナ政策の終了後、経済回復のペースが期待ほどではなかったものの、一定の成果を上げたとする自己評価を示したものだ。その上で、2024年の経済社会発展の主要目標と政策課題を提示した。具体的な成長率目標に加え、財政・金融政策の方向性、内需拡大策、産業政策の重点などが盛り込まれており、深刻化する不動産不況や若者の高い失業率といった構造的な課題に対し、政府としてどのような処方箋を示すのかが最大の焦点となっている。

経済政策の核心:「質の高い発展」と「国内大循環」

李強総理の報告では、今後の中国経済運営の基本的に理念として「質の高い発展」の推進が改めて強調された。これは、従来の投資・輸出主導による量的な経済成長から、技術革新や内需をエンジンとする持続可能な成長モデルへの転換を目指す考え方だ。また、米中対立の長期化を背景に、「国内大循環」を主体とする新たな発展モデルの構築も急がれる。これは、国内の巨大な市場を最大限に活用し、外部環境の不確実性に対する経済の強靭性を高める狙いがある。さらに、将来を見拠え、2026年から始まる「第15次五カ年計画」の策定準備を進めることにも言及された。格差是正を目指す「共同富裕(格差是正政策)」の理念や、経済発展と国家安全保障を一体で推進する「発展と安全の両立」も、引き続き重要な政策課題として位置づけられている。

日本への示唆:経済安保とビジネス機会の行方

今回の全人代で示された方針は、日本経済および日本企業に多岐にわたる影響を及ぼす。中国経済の成長目標が達成されれば、日本の輸出やインバウンド消費にとって追い風となる一方、目標達成のために過剰な生産能力が維持され、鉄鋼や太陽光パネルなどの分野でデフレ輸出が加速する懸念もある。また、中国が「質の高い発展」を掲げ、先端技術分野での自給自足を強力に推進する姿勢は、日本のハイテク産業にとって長期的には強力な競争相手の台頭を意味する。他方で、環境対策やヘルスケア、省エネ技術といった分野では、日本の技術やノウハウが貢献できる新たなビジネス機会も生まれるだろう。さらに、報告で強調された「発展と安全の両立」という方針は、経済政策に安全保障の論理がより強く反映されることを示唆しており、日本企業はサプライチェーンの見直しなど、経済安全保障の観点からの事業戦略の再構築がこれまで以上に求められることになる。