中国の医療機器大手、上海ユナイテッド・イメージング・ヘルスケア(United Imaging)の若手研究者が、がん診断などに用いられるPET-CT装置の画像解析アルゴリズムを開発した。診断の速度と精度を向上させ、欧米企業が先行する高性能医療機器市場で中国製品の存在感を高めている。
AI搭載で診断能力を飛躍的に向上
上海にあるUnited Imagingのアルゴリズム開発部門で、1993年生まれの葉青氏が技術リーダーを務める。同氏のチームは、PET(陽電子放出断層撮影)装置から送られる膨大なデータからノイズを除去し、より鮮明な病巣画像を描き出すアルゴリズムを開発。これにより、中国国産の高性能医療機器はAIという「頭脳」を得て、病巣を単に視認するだけでなく、正確かつ深く解析することが可能になった。
撮影時間20分を30秒に短縮した「uEXPLORER」
葉氏がこの分野に進んだきっかけは、清華大学大学院での核医学研究だ。当時、高性能な医療用スキャナーはほぼ輸入品で、最新技術の国産化が喫緊の課題だった。従来のPET-CTは撮影範囲が20〜30センチと狭く、全身撮影には20分以上を要した。しかし2017年、United Imagingは約2メートルの範囲を一度に撮影できる世界初の全身PET-CT「uEXPLORER」を発表。撮影時間をわずか30秒に短縮し、業界に衝撃を与えた。「多くの海外大手は開発が困難で市場性もないと考えていたが、我々のチームはやり遂げた」と葉氏は語る。
40倍のデータ量を処理する新アルゴリズム
2020年に博士号を取得しUnited Imagingに入社した葉氏を待っていたのは、新たな難題だった。「uEXPLORER」は感度が従来比で40倍に向上した一方、生成するデータ量も数十倍に膨れ上がった。従来のアルゴリズムでは処理が追いつかず、患者のわずかな動きで画像が不正確になる問題があった。葉氏のチームは、撮影しながらリアルタイムで画像を再構成する革新的な動的アルゴリズムを開発。これにより、画像の信号対雑音比(S/N比)は大幅に向上し、放射性薬剤の投与量を抑えつつ、鮮明な「全身動態代謝画像」の生成に成功した。
診断から治療まで一体化する「セラノスティクス」へ
葉氏らが開発に携わったPET装置は、中国国内の主に病院だけでなく、欧米市場にも導入が進んでいると新華社通信は伝えている。「私たちの目の前にあるのは冷たいデータではなく、苦しんでいる人々だ」と葉氏は語る。今後の目標は、スキャンと同時に放射線治療計画の策定や効果測定まで行える「診断と治療の一体化(セラノスティクス)」の実現だ。中国の若手人材が国産高性能医療機器の飛躍を支える動きは、世界の医療技術市場における勢力図を塗り替える可能性がある。
日本にとっての意味
United ImagingによるPET-CT診断の革新は、日本の医療機器産業に複数の影響をもたらす。まず、同社が「uEXPLORER」で全身撮影時間を20分から30秒に短縮し、データ処理能力を40倍に向上させた事実は、日本の主要医療機器メーカーであるキヤノンメディカルシステムズや富士フイルムヘルスケアへの直接的な競争圧力となる。特に、中国がAIを活用した診断精度向上と低価格化を両立させれば、アジア市場でのシェアを奪われるリスクが高まる。
次に、United Imagingが欧米市場へも積極的に進出していることから、日本企業が強みを持つ高機能医療機器分野での差別化がより困難になる。日本の医療機器メーカーは、中国勢が「診断と治療の一体化(セラノスティクス)」を目標とする中で、単なる機器提供に留まらず、AIによる診断支援や治療計画策定といった付加価値サービスを強化する必要に迫られるだろう。
最後に、葉青氏のような若手研究者が牽引する中国の技術革新は、日本の医療機器産業における人材育成と国際共同研究のあり方にも示唆を与える。中国が国産化を急ぐ背景には、高度な医療技術へのアクセス確保と自給自足の強化がある。日本企業は、中国市場での競争激化を見据え、特定のニッチ分野での技術優位性を確立するか、あるいは中国企業との協業を通じて新たな市場機会を探る戦略が求められる。