中国の国会にかなりする第14期全国人民代表大会(全人代)第2回会議が2024年3月5日、北京の人民大会堂で開幕した。新華社通信によると、習近平国家主席(共産党総書記)や李強首相ら党と国家の指導者が出席。李首相は就任後初となる政府活動報告を行い、2024年の国内総生産(GDP)成長率目標を「5%前後」に設定する方針を明らかにした。
なぜ今、重要か
今回の全人代は、中国経済が不動産不況の深刻化、デフレ圧力、若者の高い失業率といった複数の逆風に直面する中で開催された。米中対立の長期化と地政学リスクの高まりを受け、習近平指導部が示す経済運営と安全保障の方針は、国内外から極めて高い関心を集めている。
特に注目されるのが、政府活動報告で初めて重点政策として明記された「新質生産力」の推進だ。これは従来の投資・輸出主導型モデルからの転換を図り、ハイテク分野の自立とイノベーションを経済成長の新たなエンジンとする国家戦略である。この方針が、今後の中国の産業構造や国際競争力に大きな影響を与えることは確実視されている。
2024年の主に目標と政策方針
李強首相が示した政府活動報告では、2024年の主にな経済社会発展目標として以下の数値が掲げられた。これらは、経済の安定を維持しつつ、構造転換を進めるという指導部の意思を反映している。
- GDP成長率: 5%前後
- 都市部の新規雇用創出: 1200万人以上
- 財政赤字の対GDP比: 3%
- 消費者物価指数(CPI)上昇率: 3%前後
5%前後の成長目標は市場の事前予想の範囲内だが、前年よりも達成のハードルは高いとの見方が多い。また、国防予算は前年比7.2%増の1兆6655億元(約34兆8000億円)とされ、経済成長率を上回る伸びを維持。国家の安全保障を重視する姿勢を鮮明にした。
重点分野「新質生産力」の推進
李首相は報告の中で、「新質生産力の発展を大いに推進する」と強調し、これを2024年の最重要課題の一つに位置づけた。これは、労働集約型産業から技術集約型産業への高度化を意味し、人工知能(AI)やバイオ製造、商業宇宙飛行、新エネルギーなどが重点分野となる。
具体策として「AI+(プラス)」イニシアチブの展開が盛り込まれ、AI技術の各産業への応用を国家レベルで推進する方針が示された。これは、米国の対中半導体輸出規制などに対抗し、技術的な自給自足体制「自立自強」を確立する狙いがある。ブルームバーグの報道によれば、この戦略の実現に向け、今後数年間で巨額の政府系ファンドが投入される見込みだ。
技術解説
「新質生産力」の中核をなすのは、先端技術の国産化と産業応用だ。特に以下の3分野が戦略の柱となる。
- 半導体: 米国による先端半導体製造装置の輸出規制を受け、中国は国内サプライチェーンの構築を急いでいる。SMIC(中芯国際集積回路製造)は既存のDUV(深紫外線)露光装置を駆使して7nmプロセスの量産に成功したとされ、国産化への執念を見せる。政府は「国家集積回路産業投資基金(大基金)」などを通じ、2024年以降も製造装置や材料分野へ年間数兆円規模の投資を継続するとみられる。
- 人工知能(AI): 「AI+」イニシアチブは、大規模言語モデル(LLM)を国内のあらゆる産業に統合する計画だ。ファーウェイ(ファーウェイ技術)の「Ascend(昇騰)910B」など、国産AIチップの開発と量産が進むが、NVIDIA製の最先端GPUとの性能差は依然として大きい。計算能力(演算能力)の確保が、今後のAI戦略の成否を分ける最大の課題となる。
- 新エネルギー: 電気自動車(EV)、車載電池、太陽光発電の3分野(「新三様」)では、中国は既に世界市場を席巻している。CATL(寧徳時代新エネルギー科学技術)やBYDは、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池のコスト競争力と技術革新で世界をリード。エネルギー密度は160-200Wh/kgに達し、サイクル寿命も向上している。政府は過剰生産能力を輸出に向けることで、世界的なデフレ圧力の一因となっているとの指摘もある。
日本への影響と今後の展望
今回の全人代で李強首相が「第14次五カ年計画」の主要指標や大規模プロジェクトの進展を強調したことは、日本企業にとって二つの具体的な影響をもたらす。
第一に、中国政府が計画経済的な手法で特定分野への投資を加速させる可能性が高い。例えば、半導体やEVバッテリーといった戦略的産業における国産化推進は、日本からの部品・素材輸出に逆風となる。特に、日本電産や村田製作所のような中国市場で高いシェアを持つ企業は、代替品開発やサプライチェーン再編を迫られるリスクがある。
第二に、李首相が「極めて異例の一年だった」と総括した2023年の経済状況を乗り越え、主要目標を「順調に達成」したと強調したことは、中国政府が経済成長の達成度を政治的安定に直結させている表れである。このため、目標達成のためには、市場原理よりも政治的判断が優先される場面が増えることが予想される。これは、事業展開における予見可能性の低下を意味し、日本企業が中国市場で新たな投資を行う際のハードルを高める。例えば、中国市場に特化した生産ラインを持つトヨタ自動車のような企業は、政府の政策転換による急な需要変動や規制強化に直面する可能性があり、事業ポートフォリオの多角化が急務となる。
出典・参考
- [新華社] (2024-03-05) "(全国人民代表大会・政治協商会議(両会)受权発布)李强在政府業務報告中提示した今年発展主に预期目标" ― http://www.news.cn/2024-03/05/c_1130071337.htm
- [Reuters] (2024-03-05) "China sets ambitious 2024 GDP growth target of around 5%" ― https://www.reuters.com/world/china/china-sets-2024-gdp-growth-target-around-5-2024-03-05/
- [日本経済新聞] (2024-03-05) "中国、成長目標5%前後 24年全人代開幕 首相「困難多い」" ― https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM04B5P0U4A300C2000000/