中国の重要政策を審議する全国人民政治協商会議(政治協商会議)が3月11日、北京の人民大会堂で閉幕した。会議では2026年から始まる第15次五カ年計画の策定に向けた基本的に方針が示され、習近平指導部は科学技術の自立を柱とする「中国式の近代化」を改めて強調した。経済の減速懸念が高まる中、次期計画は新たな成長モデルへの移行を占う重要な試金石となる。

なぜ今、重要か

今回の会議は、中国経済が重大な岐路に立つ中で開催された。不動産市場の長期低迷、地方政府の債務問題、デフレ圧力といった国内課題に加え、米国主導の先端技術への規制強化という国際的な逆風に直面している。2024年の全国人民代表大会(全人代)で示された「5%前後」という経済成長率目標の達成も容易ではないとの見方が広がる。

このような状況下で策定される第15次五カ年計画は、単なる経済計画にとどまらない。米中対立の長期化を見拠え、国家の安全保障と経済の自立をいかに両立させるかという、習近平指導部の国家戦略そのものを具体化するものだ。特に、AIや半導体などの分野で技術的優位を確立することを目指す「新質生産力」の創出が、次期計画の最重要課題として位置づけられている。

会議の概要と習近平指導部の狙い

閉幕会議には、中国共産党中央委員会の習近平総書記(国家主席、中央軍事委員会主席)ら党と国家の最高指導部が出席。政治協商会議の王滬寧(おう・こねい)主席が演説し、第15次五カ年計画の策定と実施に向けて「知恵と力を結集する」よう呼びかけ、党の指導の下での結束を強く訴えた。

新華社通信によると、会議期間中、委員らは政府活動報告や経済社会発展計画を議論。過去1年間の成果を高く評価するとともに、「新時代」における「中国式の近代化」を推進し、経済の安定成長と社会の長期安定に貢献していく方針を確認した。これは、経済的な課題が山積する中でも、政治的な安定を最優先し、党の求心力を維持しようとする指導部の強い意志の表れとみられる。

第15次五カ年計画の焦点:「新質生産力」

次期計画の最大の焦点は「新質生産力」という概念だ。これは、従来の不動産やインフラ投資に依存した成長モデルから脱却し、技術革新を経済成長の主にな原動力と位置づける新たな発展戦略を指す。具体的には、人工知能(AI)、量子コンピューティング、バイオテクノロジー、新エネルギー、宇宙開発といった分野が重点領域となる。

第14次五カ年計画(2021〜2025年)でも科学技術の自立は強調されていたが、第15次計画ではその重要性がさらに高まる見通しだ。背景には、米国の半導体輸出規制などが中国のハイテク産業に与えた打撃がある。次期計画では、国内のサプライチェーンを強化し、基幹技術の国産化率を引き上げるための具体的な数値目標や、巨額の国家投資が盛り込まれる可能性が指摘されている。

技術解説:「中国式の近代化」を支える国家戦略

新質生産力」の創出は、単なる産業政策ではなく、米国の技術覇権に対抗するための国家安全保障戦略と不可分だ。中国政府は、この目標を達成するために複数の政策手段を組み合わせている。

第一に、巨額の国家主導投資だ。半導体分野では「国家集積回路産業投資基金(大基金)」を通じて、これまでに3,400億元(約7兆円)以上を投じ、国内の製造・設計企業を支援してきた。第15次計画期間中も、同様の基金がAIやバイオ分野で設立されると見られている。

第二に、研究開発(R&D)への大規模な投資継続である。中国のR&D支出は2023年に3兆3,278億元(約69兆円)に達し、国内総生産(GDP)比で2.64%となった。第15次計画では、この比率をさらに引き上げ、基礎研究分野への配分を増やすことが目標となる。

第三に、国内の巨大市場を活用した「内循環」戦略だ。政府調達や国内の巨大テック企業(Alibabaテンセントなど)が国産技術を積極的に採用することで、新興企業の成長を促し、技術の改良サイクルを加速させる。これにより、国際市場から切り離されても発展を継続できる強靭な経済圏の構築を目指している。

結論:日本への示唆

全国政治協商会議の閉幕と第15次五カ年計画への言及は、日本企業にとって重要な示唆を含む。まず、習近平指導部が「中国式の近代化」を強調し、経済成長と社会安定の維持を掲げたことは、外資系企業に対する政策の安定性を示唆する一方で、中国共産党の統制強化が継続されることを意味する。特に、サプライチェーンの国内回帰や技術自給自足の推進が加速すれば、日本の製造業は中国市場での部品調達や生産戦略の見直しを迫られる可能性がある。

次に、王滬寧主席が「民意、共通認識、知恵、そして力を結集していく」と述べたことは、国内消費の喚起と内需主導型経済への転換を加速させる可能性が高い。日本の消費財メーカーやサービス業は、中国人富裕層の購買力に依存するだけでなく、中間層のニーズを捉えた製品開発やマーケティング戦略への転換が求められる。例えば、中国国内でのECプラットフォームとの連携強化や、現地生産・現地消費モデルへのシフトが成功の鍵となるだろう。

最後に、2026年から始まる第15次五カ年計画の策定に向けた動きは、中国が今後注力する産業分野を早期に特定する機会を提供する。デジタル経済、グリーンテクノロジー、先端製造業などが重点分野となる可能性が高く、これらの分野で強みを持つ日本の企業は、中国企業との協業や技術提携を通じて新たなビジネスチャンスを創出できる。ただし、知的財産権保護の強化や、データ越境規制への対応など、事業環境の変化に柔軟に対応する体制構築が不可欠である。