中国国家統計局 (National Bureau of Statistics of China, NBS) が5月18日に発表した2026年4月の70大中都市の住宅価格統計は、長期化する不動産不況の底入れには程遠い実態を示した。北京や上海など「一線都市」では新築・中古住宅価格が前月比で上昇した一方、地方の「二・三線都市」では下落基調が継続。この「まだら模様」は、政府による一連の支援策の効果が限定的であり、中国経済の回復が極めて不均一であることを浮き彫りにしている。深刻な在庫圧力と地方政府の財政難という構造問題を抱え、市場の本格的な回復への道のりは依然として険しい。

一線都市と地方で明暗、4月住宅価格が示す「分化」

4月の統計データは、中国不動産市場の構造的な分化を明確に示している。一線都市の新築住宅価格は前月比で0.1%上昇したものの、3月の上昇率0.2%からは鈍化した。内訳を見ると、上海が0.4%上昇と牽引した一方で、北京は0.2%下落しており、一線都市内でも状況は一様ではない。対照的に、二線都市は0.1%、三線都市は0.3%それぞれ下落し、地方都市の需要をの弱さが際立った。

より市場の実勢を反映するとされる中古住宅市場では、この傾向はさらに顕著だ。一線都市は前月比0.4%上昇と堅調で、特に上海は0.7%の上昇を記録した。しかし、二線都市は0.2%下落、三線都市も0.3%下落とマイナス圏から抜け出せていない。前年同月比で見ると事態の深刻さは一層明らかで、一線都市の中古住宅価格は6.8%の大幅な下落となっており、市場の基調がいかに弱いかを物語っている。

この状況について、「証券日報が報じた中原地産の張大偉首席アナリストの分析」によれば、市場は「一線堅挺、二線分化、三線承圧」(一線都市は堅調、二線都市は分化、三線都市は圧力が続く)という構図が固定化しつつあるという。新築住宅価格が上昇または横ばいだった都市数が3月の16から21に増加したことを前向きな兆候と捉える向きもあるが、70都市全体で見れば依然として7割以上の都市で価格が下落しており、全面的な回復には至っていないのが実情だ。

「三道紅線」から続く不況、政策効果は限定的

中国政府は2023年後半から、住宅ローン金利の引き下げや頭金比率の緩和、主要都市での購入制限撤廃など、不動産市場の安定化に向けて矢継ぎ早に支援策を打ち出してきた。しかし、4月の統計が示すように、これらの政策効果は主に購入力のある層が集中する一線都市に限定されている。

今回の不況の根源は、2020年に導入された不動産デベロッパーに対する厳格な財務規制「三道紅線(3つのレッドライン)」に遡る。過剰な借り入れに依存してきた企業の資金繰りが急速に悪化し、2021年には中国恒大集団集団 (China Evergrande Group) が実質的なデフォルト(債務不履行)に陥った。その後、碧桂園 (Country Garden) など他の大手も連鎖的に経営危機に直面した。

さらに、地方政府の財政構造が問題を複雑にしている。長年、地方政府は国有地の使用権をデベロッパーに売却することで歳入の多くを賄ってきたが、不動産市況の悪化で土地売却収入は激減し、財政は危機的な状況にある。国際通貨基金 (IMF) も近年の報告書で、不動産セクターの調整が中国の地方財政と金融システムの安定を脅かす主要なリスクであると繰り返し警告したしている。

在庫圧力と人口動態の壁、成長モデル転換の試練

現在、中国政府が直面しているのは、「保交楼(住宅引き渡し保証)」と過剰な住宅在庫の解消という二つの大きな課題である。前者は、資金難で建設が中断したマンションを購入者に確実に引き渡すことを目指す政策で、社会不安の抑制に不可欠だ。しかし、デベロッパーの資金不足は深刻で、建設の再開は思うように進んでいない。

一方、特に三・四線都市を中心に積み上がった膨大な未販売住宅の在庫は、価格に強い下落圧力をかけ続けている。政府は地方政府や国有企業にこれらの在庫を買い取らせ、公営住宅として活用する案を推進しているが、財源の制約からその規模は限定的とならざるを得ない。この在庫問題が解決されない限り、新規の不動産開発は停滞し、経済全体への波及効果も期待できない。

長期的に見れば、生産年齢人口の減少と急速な高齢化という人口動態の変化が、住宅需要の構造的な停滞要因として横たわっている。かつてのような建設ラッシュが経済を牽引する成長モデルは終焉を迎え、中国経済は痛みを伴う構造転換を迫られている。不動産市場の分化は、この構造転換の過程で、経済活力のある都市とそうでない地方との格差が拡大している現実を映し出している。

日本への影響と今後の展望

中国不動産市場の「まだら模様」は、日本企業にとって事業戦略の再考を迫る。一線都市の中古住宅価格が前年同月比で6.8%も下落している現状は、富裕層の消費マインドに影響を与え、日本製品やサービスへの需要を減退させる可能性がある。特に、百貨店や高級ブランドなど、中国の富裕層を主要顧客とする企業は、売上減少のリスクに直面する。

一方で、上海の一線都市新築住宅価格が0.4%上昇している点は、都市部における一定の需要と経済活動の維持を示唆する。日本の建設機械メーカーや建材メーカーは、一線都市でのインフラ投資や再開発案件に商機を見出す可能性がある。しかし、地方都市の下落基調が続く中で、中国恒大集団や碧桂園のような大手デベロッパーの連鎖的な経営危機は、日本企業のサプライチェーンにも影響を及ぼす恐れがある。例えば、これらのデベロッパーに資材を供給していた日本企業は、代金回収の遅延や不良債権化のリスクに直面する。

また、国際通貨基金(IMF)が指摘するように、不動産セクターの調整が中国の地方財政に与える影響は深刻だ。地方政府の財政悪化は、日本企業が関わる地方インフラプロジェクトの遅延や中止、ひいては地方市場でのビジネス機会の縮小につながる可能性がある。日本企業は、中国市場での事業ポートフォリオを見直し、一線都市と地方都市の経済状況の差異を考慮した上で、リスク分散と新たな機会の探索を進める必要がある。