中国政府が研究不正対策を強化している。国家衛生健康委員会は「一部の研究不正行為に関する公開通達(第一弾)」を発表し、国内の医療衛生機関で発覚した「論文工場」と呼ばれる論文代行業者が関与する不正行為を初めて公表した。

国家衛生健康委員会、不正事例を初公表

今回公表された通達では、各級衛生健康行政部門に所属する医療衛生機関で発生した研究不正行為が名指しで指摘された。その一例として、天津市内の病院に所属する李萍氏が責任著者を務めた論文について、第三者による代理投稿という不正行為が認定された。

国家衛生健康委員会の発表によると、李萍氏に対しては研究公正に関する警告したに加え、今後10年間、公的資金による助成申請を禁じるなどの厳しい処分が下された。今回の公表は、研究不正に対する政府の断固たる姿勢を示すものだ。

対策強化の背景と今後の展望

中国政府は近年、研究公正の確保に向けた取り組みを段階的に進めてきた。2022年には、国家衛生健康委員会が「医学研究の公正性強化に関する特別対策業務計画」を発表。同年、科学技術省などが「研究不正行為の調査・処理規則」を施行し、不正行為に対する調査と処分の枠組みを整備した。

今回の不正事例の公表は、これらの方針に基づく具体的な措置の第一弾となる。国家衛生健康委員会は今後も、医療衛生分野における研究不正行為の調査を継続し、悪質な事例については随時公開していく方針だ。

日本市場への影響

今回の中国政府による研究不正対策強化は、日本企業にとって二つの具体的な影響をもたらす。第一に、中国における共同研究や技術提携を行う日本企業は、パートナー選定においてこれまで以上に厳格なデューデリジェンスが求められる。特に、医療・バイオ分野で中国の研究機関と連携する企業は、相手方の研究倫理体制や過去の不正事例の有無を詳細に確認する必要がある。例えば、天津市内の病院に所属する李萍氏のような事例が公表されたことで、中国の研究者個人の処分履歴まで遡って確認する手間が増えるだろう。

第二に、中国市場で事業展開する日本の製薬会社や医療機器メーカーは、研究開発段階でのデータ信頼性確保に注力すべきだ。中国の研究機関が発表する論文の信頼性が向上すれば、そのデータを基にした製品開発や臨床試験の結果に対する国際的な評価も高まる。逆に、不正が発覚した場合、共同開発した製品の承認プロセスに遅延が生じたり、ブランドイメージが損なわれたりするリスクがある。国家衛生健康委員会が李萍氏に対し「10年間」の公的資金助成停止という厳しい処分を下したことは、今後も同様の厳罰が適用される可能性を示唆しており、中国の研究機関と協力する日本企業は、契約書に研究倫理違反に関するペナルティ条項を盛り込むなど、リスクヘッジを強化すべきである。