シャオミの電気自動車(EV)事業の成功を受け、中国のテクノロジー企業の創業者たちが相次いでSNSでの情報発信を強化し、自らを広告塔とする動きが加速している。ロボット掃除機で急成長したドリーミー・テクノロジー(Dreame Technology)の創業者、ユー・ハオ(兪浩)氏もその一人だが、事業規模や背景が大きく異なる中での「雷軍モデル」の模倣は、時期尚早でリスクを伴うとの見方が出ている。
中国テック界に吹く「創業者IP化」の嵐
2024年以降、シャオミの雷軍(レイ・ジュン)氏の成功に触発され、中国テック企業の創業者たちがSNSでの発信を活発化させている。Great Wall汽車(Great Wall Motor)の魏建軍氏やIT大手360グループの周鴻禕氏、そしてドリーミーのユー氏らが、自らのブランド力(IP)を武器にマーケティング戦略に乗り出した。
背景には、国内市場の過当競争、海外展開コストの上昇、AIブームによる既存ハードウェア企業の評価額低下といった共通の課題がある。「黙って良い製品を作れば売れる」時代は終わりを告げ、創業者自らが発信することが最も費用対効果の高い打開策と見なされ始めた。一部の分析では、雷軍氏個人の発信力は、シャオミのEV事業において20億元(約400億円)以上の広告費を節約したとされ、この成功事例が他の経営者を惹きつけている。
ドリーミー、成長の踊り場とIPOへの焦り
ユー氏のメディア露出が急増したのは2023年以降だ。同社は清掃家電から事業領域を30以上に拡大し「全室スマート化」を掲げる。ユー氏自身もSNSで「100兆ドル企業」という壮大な目標を打ち出し、その影響力はデジタル製品分野で雷軍氏に次ぐ2位にまで急浮上した。
ドリーミーの業績は好調で、2023年第3四半期までの売上高は前年同期比72%増の120.7億元(約2400億円)に達し、通年で150億元(約3000億円)を突破する見込みだ。しかし、主力である清掃家電の世界シェアは約12%に達しており、この分野だけで倍増するような急成長は難しい。事業が成長の踊り場に差し掛かる中、同社は2026年下半期に上海証券取引所のハイテク新興企業向け市場「科創板(スターマーケット)」への上場を計画しており、ユー氏のPR戦略転換にはIPOに向けた焦りも透けて見える。
「雷軍モデル」成功の特殊な前提条件
しかし、ユー氏が模倣する「雷軍モデル」には、特殊な前提条件があった。シャオミがEV事業を立ち上げた際、同社はすでに年間売上高1000億元を超える上場企業であり、盤石な経営基盤を持っていた。さらに重要なのは、雷軍氏が過去10年以上にわたり、「コストパフォーマンスの高いスマートフォン」「IoTエコシステム」といった公約を着実に実現してきたことだ。この長年の信頼蓄積が、EVという新たな挑戦に対する市場の期待を醸成した。
一方、ドリーミーはまだ売上150億元規模の未上場企業であり、ユー氏の世間での認知度も「ロボット掃除機の人」にとどまる。雷軍氏とは手札が全く異なる状況で、同じ戦術を採ることには大きなリスクが伴う。
製品力で語るDJI、対照的な戦略
対照的なのが、ドローン世界最大手DJIの創業者、汪滔(フランク・ワン)氏だ。同氏は2016年に「自己PRで有名になるのではなく、製品で語る」と宣言して以来、公の場から姿を消した。その間、DJIの売上高は60億元から300億元へと成長したが、創業者がメディアに登場することはなかった。同様に、360度カメラで知られるInsta360も、創業者が表に出ることなく売上高40億元を達成し2023年に上場を果たしている。これらの企業は、圧倒的な製品力こそが最強のマーケティングであると証明した。ユー氏の性急な自己PR戦略は、信頼という土台を欠いたままでは、シャオミのような成功を再現するのは難しいだろう。
日本企業への示唆
シャオミの雷軍氏に端を発する中国テック企業の「創業者IP化」は、日本企業にとって新たな競争環境をもたらす。ドリーミーのユー・ハオ氏のように、売上150億元規模の未上場企業が「100兆ドル企業」目標を掲げ、創業者が広告塔となることで、従来のマーケティング手法ではリーチしにくかった層への浸透を加速させる可能性がある。
これは、日本の家電メーカー、特に清掃家電分野でドリーミーと競合する企業にとって、製品力に加え、ブランドパーソナリティの構築がより重要になることを示唆する。例えば、パナソニックやシャープが中国市場でブランド力を維持するには、単なる製品性能のアピールだけでなく、企業理念や開発者の情熱といった「物語」を効果的に伝える戦略が求められるだろう。
また、雷軍氏がEV事業で「20億元以上の広告費を節約した」とされるように、創業者の発信力は莫大なマーケティングコストを代替し得る。これは、特に中国市場への新規参入やシェア拡大を目指す日本の中小企業にとって、限られた予算でブランド認知度を高める上で、現地の有力インフルエンサーやキーパーソンとの連携、あるいは自社経営陣の積極的な情報発信を検討する機会となる。
一方で、ドリーミーの「時期尚早」との指摘は、日本の企業が安易に模倣すべきではないリスクも示唆する。シャオミのような長年の信頼蓄積がない中で、過度な創業者依存はブランドイメージの毀損や消費者からの不信を招く恐れがある。日本企業は、DJIのように「製品力で語る」戦略と、創業者IP化のバランスを慎重に見極める必要がある。