欧州連合(EU)は、中国製太陽光発電インバーターが電力網へのサイバー攻撃や大規模停電のリスクを抱えるとして、安全保障上の懸念を表明した。これに対し、中国側は「根拠なき悪意ある中傷だ」と強く反発しており、両者の間で新たな摩擦が生じている。

EU、中国製インバーターに懸念

ドイツの公共放送「ドイツ・ウェレ」は5月7日、欧州が中国製太陽光発電技術に依存していることが、電力網への遠隔アクセスを通じたサイバーセキュリティ上のリスクを引き起こしていると報じた。EU委員会は、中国製インバーターを使用するプロジェクトへのEU資金援助を禁止する方針を示しており、その理由として、欧州の電力網に対する安全保障上の脅威、さらには大規模停電を引き起こす可能性を挙げている。

太陽光発電システムにおいて「頭脳」ともされるインバーターは、太陽光を電力に変換する重要な装置であり、通常はインターネットに接続され、遠隔での保守やソフトウェア更新が可能だ。EUの決定は、5月4日に確認されたもので、中国のグリーン技術への依存が欧州の安全保障上の脆弱性を高めているとの懸念を反映している。

「全欧停電」の可能性を指摘

欧州太陽光発電製造委員会のクリストフ・ポデヴィルス事務局長は、全てのインバーターメーカーが「緊急遮断スイッチ」を設けていると指摘した。サイバーセキュリティ専門家とされるスワンチェ・ウェストファル氏は、最悪の場合、ハッカーや敵対的な国家主体がこれらの遠隔接続を利用し、電力供給を妨害する可能性があると警告したし、「欧州全体での大規模停電が最悪の結果となる」と主張している。しかし、同氏はその主張を裏付ける具体的な証拠は示していない。

ジュネーブに拠点を置く調査機関Loomのデータによると、2024年に欧州が輸入したインバーターの61%が中国製であり、中国の少数のメーカーが欧州の太陽光発電設備容量220ギガワット以上に対しハードウェアを提供している。ポデヴィルス氏は、わずか10ギガワットの設備容量を制御するだけで、欧州の電力網に深刻なシステム障害を引き起こす可能性があると指摘した。ドイツのメディア自身も、これまでのところ中国製インバーターが欧州の電力網を停止させた既知の事例はないと認めているが、欧米側は悪意ある中傷を続けていると中国側は反発している。

高まる中国技術への依存とEUの対応

インバーターを巡る今回の議論は、欧州が中国のクリーン技術輸入への全体的な依存度を再評価している中で浮上した。Loomのデータでは、欧州が輸入する太陽光パネルの98%、リチウムイオン電池の88%が中国製品だ。同機関は、ネットワーク接続されたエネルギー技術における遠隔アクセス機能が、電力システム全体に潜在的な脆弱性をもたらす可能性があると警告したした。

EU委員会は近年、中国からの輸入品に対し、安全保障上のリスクや欧州産業への脅威を理由に、より強硬な姿勢を取っている。今年3月には、欧州製のグリーン技術への資金誘導を目的とした「産業加速法案」を提示した。さらに、「サイバーセキュリティ法」の改正案も提示しており、これによりEUは、加盟国の通信やエネルギー供給といった重要インフラにおける中国企業の関与を制限する権限を強化する方針だ。しかし、香港のサウスチャイナ・モーニング・ポストが5月6日に報じた最新レポートによると、サイバーセキュリティ法の改正は、今後5年間でEUに最大3678億ユーロ(約62兆円)の追加コストをもたらす可能性があると指摘されている。

日本への影響と今後の展望

本件は、日本企業にとって中国依存からの脱却と、新たな市場機会の創出を迫る。まず、欧州が2024年に輸入したインバーターの61%が中国製であるというLoomのデータは、中国製品の圧倒的な市場シェアを示す。これは、日本企業が中国からインバーターを調達している場合、サプライチェーンの脆弱性が顕在化するリスクを意味する。特に、電力インフラに関わる製品であるため、地政学的リスクが直接的な事業リスクに繋がりかねない。

次に、EU委員会が中国製インバーターを使用するプロジェクトへのEU資金援助を禁止する方針は、日本企業がEU市場で事業展開する際に、中国製部品の排除を迫られる可能性を示唆する。例えば、日本の太陽光発電関連企業がEU向けに製品を供給する際、中国製インバーターを使用していれば、EUからの資金援助を受けられず、競争力が低下する恐れがある。

一方で、今回のEUの動きは、日本企業にとって新たなビジネスチャンスも生み出す。EUが「産業加速法案」や「サイバーセキュリティ法」の改正を通じて、自国産業の育成と重要インフラの安全保障を強化する方針であることから、日本企業は高信頼性・高セキュリティなインバーターや関連技術の開発・供給で貢献できる可能性がある。特に、欧州の電力網に深刻なシステム障害を引き起こす可能性が指摘される中、日本のサイバーセキュリティ技術や電力制御技術への需要が高まることが予想される。