中国のフードデリバリー最大手、美団(メイトゥアン)は、生鮮EC(電子商取引)を手がけるディンドン・マイツァイ(叮咚買菜)を7.17億ドルで買収すると発表した。競争が激化する即時配達(インスタントリテール)市場において、ライバルのJD.com(JD.com(京東)集団)などを引き離し、首位の座を固める狙いだ。
買収の背景と狙い
今回の買収は、美団がディンドン・マイツァイの全株式と事業を取得する形で行われる。美団は自社の巨大なプラットフォームと、ディンドン・マイツァイが持つ生鮮食品のサプライチェーンを統合することで、サービス提供エリアの拡大と配送効率の向上を目指す。
中国の即時配達市場では、美団とAlibaba系の「盒馬(フーマー)」、そしてJD.comが三つ巴の競争を繰り広げてきた。JD.comもディンドン・マイツァイの買収を検討していたが、最終的に美団が競り勝った形となり、市場の勢力図が大きく変わる可能性がある。
苦境のディンドン・マイツァイ
一方、買収されるディンドン・マイツァイは、激しい価格競争の中で経営に苦戦していた。同社の2024年の売上高は230.66億元(約4,900億円)だったが、GAAP(米国会計基準)ベースの純利益は3.04億元にとどまった。
さらに、特定のプロジェクトを除いた実質的な利益は6,000万元と低迷しており、株価売上高倍率(PSR)も直近で0.16倍まで低下するなど、市場からの評価も厳しかった。今回の買収は、ディンドン・マイツァイにとって事業継続に向けた活路となる。
日本への影響
美団によるディンドン・マイツァイの7.17億ドルでの買収は、日本の小売・物流業界に具体的な影響を及ぼす。第一に、中国即時配達市場の寡占化は、日本企業の中国市場戦略に再考を促す。美団がJD.comを退け生鮮ECのサプライチェーンを取り込んだことで、中国における「ラストワンマイル」配送の支配力が一層強化される。これは、中国市場への生鮮食品輸出を検討する日本の食品メーカーや、中国国内でのEC展開を目指す小売企業にとって、美団プラットフォームへの依存度が高まることを意味し、交渉力や手数料体系への影響を考慮する必要がある。
第二に、ディンドン・マイツァイが売上高230.66億元に対し実質利益6,000万元と低迷していたにもかかわらず買収された事実は、中国市場における価格競争の苛烈さと、規模の経済による収益化の難しさを示す。日本の生鮮ECやフードデリバリー企業が中国市場への参入を検討する際、単なる技術力やサービス品質だけでなく、美団のような巨大プラットフォームとの連携、あるいは差別化戦略の明確化が不可欠となる。
第三に、今回の買収は、中国のデジタルプラットフォームがリアル店舗やサプライチェーンを積極的に取り込み、DXを加速させていることを改めて示す。日本の小売業や物流企業は、美団のような中国テック企業のM&A戦略から、データと物流網を統合した「インスタントリテール」の進化を学び、自社のデジタル変革戦略に活かす機会がある。特に、生鮮食品の即時配達における効率化や、顧客体験向上のヒントを得られるだろう。