中国最大のオープンソース技術コミュニティ「OSChina (開源中国)」が、シリーズC+ラウンドで数億元(数十億円規模)の資金調達を完了し、上場計画を本格化させている。同社は2024年4月の発表で「オープンソースAI関連の上場第1号」を目指す方針を表明。2000万人以上の開発者基盤と、世界第2位のコードホスティング基盤「Gitee (碼雲)」を運営し、2023年には黒字化を達成した。その株主には国有資本や大手テック企業が名を連ねており、米中技術対立が先鋭化する中で、中国独自のソフトウェア開発エコシステム構築に向けた動きとして注目される。

巨額負債から黒字化へ、理念貫いた経営

OSChinaの事業は、技術コミュニティサイト「oschina.net」と、コードホスティング基盤「Gitee」の二本柱で構成される。中国国内の開発者2000万人以上を束ねるプラットフォームとして成長を遂げ、2023年の売上高は前年比2.2倍に増加、数千万元(数億円)規模の黒字化を達成した。現在の現金純資産は6億元(約120億円)を超えるとされる。

しかし、その道のりは平坦ではなかった。創業者である馬越 (Ma Yue) 氏は、過去に14回も従業員の給与支払いが滞り、個人で抱えた負債は最高で2.4億元(約48億円)に達したと、中国メディアの取材で語っている。経営が苦しい時期でも、コミュニティの理念に反する消費者金融などの広告掲載は一貫して断り続けたという。この理念経営が、開発者からの信頼を獲得し、現在の強固なコミュニティ基盤を築く土台となったと見られる。

米国での原体験と「オープンソース不毛の地」での挑戦

馬氏のオープンソースへの傾倒は、1998年の米国留学に遡る。ソフトウェア工学を学ぶ中で、ゼロからコードを書く「車輪の再発明」を不要にするオープンソースの思想に強い影響を受けた。2006年には、オープンソースのアーキテクチャで構築したプロジェクトが評価され、米レッドハット社のイノベーション賞を受賞。これを機に帰国し、2007年に前身となる「恒拓開源 (Hentop)」を創業した。

当時の中国はオープンソースの概念が乏しく、多くの経営者が単なる「コスト削減手法」としか認識していない「不毛の地」だった。それでも馬氏は、IBMやオラクルなどの高価な商用ソフトウェアの代替となるオープンソースソリューションを提供。中国南方航空との大型契約を足がかりに、大企業向けビジネスを拡大していった。その後、開発者コミュニティの育成こそが本質的な価値を持つとの考えから、2012年にOSChinaを買収。2017年には親会社からの独立を果たし、現在の事業基盤を確立した。

国策と共振する「Gitee」、GitHub依存脱却の受け皿か

OSChinaの成長を構造的に分析すると、単なる一企業の成功物語に留まらない側面が浮かび上がる。特に、同社が運営する「Gitee」は、米マイクロソフト傘下の「GitHub」が地政学リスクの影響を受ける可能性への備えとして、中国の技術戦略上、重要な位置を占めている。

過去にGitHubが米国の制裁対象国(イランなど)の開発者アカウントを制限した事例は、中国の政策担当者やテクノロジー企業に、基幹的な開発インフラを海外プラットフォームに依存するリスクを強く認識させた。この文脈において、国内に代替基盤を持つことは、技術主権を確保する上で不可欠となる。OSChinaの株主に国有資本が参画している事実は、同社の事業が中国の技術自立化という国家戦略と軌を一にしていることを示唆している。

OSChinaとGiteeは、中国政府が進める「双循環(国内国際二循環戦略)」のうち、特に国内大循環をソフトウェア開発の領域で具現化する役割を担っていると見ることができる。国内で開発者を育成し、国内のプラットフォームでコードを管理・共有し、国内の産業で活用するエコシステムを完結させる。馬氏が掲げる「時価総額1000億元(約2兆円)企業」という目標は、この巨大な国内エコシステムの価値を商業的に証明しようとする試みとも言えるだろう。

日本企業への示唆

中国最大のオープンソース技術コミュニティ「OSChina」が上場計画を本格化させていることは、日本企業にとって大きな機会とリスクをもたらす。OSChinaは2000万人以上の開発者基盤と、世界第2位のコードホスティング基盤「Gitee」を運営し、2023年には黒字化を達成した。同社の株主には国有資本や大手テック企業が名を連ねており、米中技術対立が先鋭化する中で、中国独自のソフトウェア開発エコシステム構築に向けた動きとして注目される。

この動きは、日本企業にとって以下のようなリスクと機会をもたらす。まず、OSChinaの上場計画は、日本企業が中国市場で競争する力を強化する機会となる。日本企業は、OSChinaの成長を利用して中国市場でのプレゼンスを高めることができる。さらに、GiteeはGitHub依存脱却の受け皿となり得るため、日本企業はGiteeを利用して開発インフラを多様化させることができる。

一方、OSChinaの上場計画は、日本企業にとってリスクももたらす。中国政府はOSChinaを支援しており、同社の上場計画は中国の技術戦略上重要な位置を占めている。日本企業は、OSChinaの上場計画が中国政府の技術政策とどのように関連しているかを慎重に検討する必要がある。さらに、OSChinaの成長は、日本企業が中国市場で競争する力を弱める可能性もある。日本企業は、OSChinaの成長に適応して中国市場での競争力を維持する必要がある。