中国の新興EV(電気自動車)メーカー、リ・オート(Li Auto(リ・オート)、Li Auto)は2024年6月、全モデルを対象とした無線(OTA)ソフトウェアアップデート「Li OS 8.3」の配信を開始した。今回の更新では、23の新機能追加と12プロジェクトのユーザー体験最適化が含まれ、特にAIを活用した運転支援システムの性能向上に重点が置かれている。同社はソフトウェア主導での継続的な価値提供により、激化する市場競争での優位性確保を目指す。
なぜ今、重要か
今回の大型アップデートは、リ・オートが直面する市場環境の変化に対応する重要な一手だ。同社初の純電気自動車(BEV)である高級ミニバン「MEGA」の販売が、2024年3月の発売以降、当初の期待を下回った。これを受け、同社は販売戦略の見直しを迫られており、既存顧客の満足度向上とブランドロイヤルティの強化が急務となっている。中国メディア「36Kr」によると、中国EV市場は「価格戦」から「価値戦」へと移行しており、OTAによる機能向上は顧客を惹きつける上で不可欠な要素となっている。今回のアップデートは、ハードウェアの販売だけでなく、ソフトウェアとサービスで持続的に収益を上げる「ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)」戦略を加速させる狙いがある。
充電体験の向上とエンタメ機能の拡充
OTA 8.3では、ユーザー体験の細かな改善が図られている。特に充電機能では、リ・オートが自社で展開する5C超急速充電ステーションの混雑状況を車載スクリーンやスマートフォンアプリでリアルタイムに述べたする機能が追加された。これにより、大型連休などのピーク時でも、利用者は効率的に充電計画を立てられるようになる。
また、EVモデルでは、公式アプリを通じた遠隔での充電開始操作が可能になった。充電速度の最適化も図られ、全体的な利便性が向上したとリ・オートは説明している。車内エンターテインメント機能も強化され、USBメモリなどの外部ストレージを接続し、主にな音声・動画形式のファイルを車内で直接再生できるようになった。
AI活用で運転支援とUXを刷新
今回のアップデートの最大の目玉は、AIの活用による機能刷新だ。運転支援システムでは、同社が「史上最強」と謳うAI大規模モデル「VLA(Visual Language Agent)」がアップグレードされた。これにより、特に都市部の複雑な交通環境下での車線変更の判断がより正確かつ的確になり、通行効率が向上したという。リ・オートの発表によれば、システムの判断ロジックが人間のドライバーの思考に近づき、より自然で安全な運転支援を実現する。
パーソナライズ機能としては、2022年および2023年モデルのLシリーズに、AIを活用した「アートフレーム機能」が新たに追加された。利用者がアップロードした画像を基に、AIが静止画または動画のスクリーンセーバーを自動生成する。このほか、駐車場での自動決済支援機能や、ゲームエンジン『Unity』で開発されたコンテンツへの対応も追加され、車内体験の多様化が進んでいる。
技術解説: SDV時代のリ・オートの戦略
リ・オートのOTA戦略は、SDV(Software Defined Vehicle)時代の到来を象徴している。同社の運転支援システム「AD Max」は、2基のNVIDIA Orin-Xプロセッサ(合計演算能力508TOPS)と、LiDAR、ミリ波レーダー、複数のカメラを組み合わせた高度なハードウェアを搭載。今回の「VLA」モデルの進化は、この強力なハードウェア上で動作するソフトウェアの知能化が、車両の価値を決定づけることを示している。
競合であるテスラの「FSD (Full Self-Driving)」やファーウェイの「ADS 2.0」がカメラ中心のビジョンベースであるのに対し、リ・オートはLiDARを積極的に活用するフュージョン方式を採用しており、悪天候や夜間などでのロバスト性(頑健性)を強みとする。今回のアップデートは、SAE自動運転レベル2+に分類される都市部NOA(Navigate on Autopilot)機能の性能を、競合と同等以上に引き上げることを目指している。
また、5C充電(理論上約12分で80%まで充電可能)に対応した自社充電網の拡充は、BEVの弱点である充電時間を克服するための重要な投資だ。ソフトウェアによる充電スタンドの最適利用案内と組み合わせることで、ハードとソフトの両面からEVの利便性を高める統合的なアプローチが特徴である。
日本企業への示唆
リ・オートのOTA 8.3アップデートは、中国EV市場の競争激化と日本メーカーへの潜在的脅威を示唆する。特に、AI活用による「アートフレーム機能」や運転支援AI「VLA」のアップグレードは、ソフトウェア定義型自動車(SDV)への中国勢の注力を鮮明にする。リ・オートが23の新機能追加と12プロジェクトの利用体験最適化を短期間で実現したことは、中国EVメーカーの開発サイクルの速さと、ユーザーのフィードバックを迅速に製品に反映する能力の高さを示す。
これは、日本の自動車メーカーにとって二つの具体的な影響をもたらす。第一に、ソフトウェア開発体制の抜本的改革の必要性だ。トヨタやホンダといった日本勢は、ハードウェアの品質や燃費性能で優位を保ってきたが、中国EVメーカーはOTAを通じて車両の価値を継続的に向上させている。リ・オートのようにAIを活用したパーソナライズ機能や高度な運転支援システムを頻繁に更新する能力は、顧客体験の面で日本メーカーを凌駕する可能性がある。
第二に、サプライチェーンにおける機会喪失のリスクがある。リ・オートがゲームエンジン「Unity」を車載エンターテインメントに採用したように、中国EVメーカーは従来の自動車部品サプライヤーだけでなく、IT企業との連携を加速させている。日本の部品メーカーは、単なるハードウェア供給にとどまらず、ソフトウェアやAI関連技術の提供、あるいは共同開発といった新たなビジネスモデルを模索しなければ、中国市場での存在感を失う恐れがある。この技術革新のスピードは、日本企業が中国EV市場で競争力を維持するための喫緊の課題となっている。
出典・参考
- [Li Auto] (2024-06-13) "Li OS 8.3 OTA Upgrade" ― https://www.lixiang.com/news/701.html
- [36Kr] (2024-06-14) "Li Auto(リ・オート)史上最強OTA、智能運転「通勤NOA」全量推送到LCC" ― https://36kr.com/p/2815610815794185
- [Reuters] (2024-04-22) "China's Li Auto cuts prices, following Tesla, amid fierce EV competition" ― https://www.reuters.com/business/autos-transportation/chinas-li-auto-cuts-prices-following-tesla-amid-fierce-ev-competition-2024-04-22/
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