中国のロボット掃除機大手、Roborock(石頭科学技術) (Roborock) が世界シェア首位の座を獲得した。しかし、その華々しい成果の裏で、同社の収益性は深刻な悪化に見舞われている。2025年会計年度の決算では、売上高が前年比56.5%増と急拡大した一方、純利益は31%減少した。この「増収減益」という矛盾は、シェア拡大のための価格競争と、創業者CEOの電気自動車 (EV) 事業への傾注という二つの構造的問題を浮き彫りにしている。
シェア首位の代償、利益3割減の「増収減益」構造
調査会社IDCが発表した2025年の世界ロボット掃除機市場レポートによると、Roborockは市場シェア17.7%を獲得し、長年の競合であるECOVACS(科沃斯) (ECOVACS) を抜き、初めて世界トップに立った。しかし、この快挙は大きな代償を伴うものだった。同社の決算は、売上高の急増とは裏腹に利益が大幅に減少する典型的な「利益なき繁忙」の状態を示している。
この背景には、シェア獲得を最優先し、マーケティング費用や販促費を積極的に投下した結果、激しい価格競争に陥ったことがあるとみられる。かつては高い利益率から「掃除機界のマオタイ」と評された高収益体質は過去のものとなりつつある。同社の株価はピーク時から7割以上下落しており、株式市場がシェアという表面的な指標よりも、収益性の悪化という現実を厳しく評価していることを示している。
中国ロボット掃除機市場の消耗戦、競合は収益性改善へ
Roborockが収益性の課題に直面する一方、中国国内の競争環境は熾烈を極めている。長年のライバルであるECOVACSは、一時的な業績不振から脱却し、2025年度決算で純利益を118%増とV字回復を達成した。同社は闇雲なシェア拡大を追わず、コスト管理を徹底し、高付加価値製品へ注力することで収益性を改善。Roborockとは対照的な経営戦略を見せている。
新興勢力の追觅 (Dreame) は海外市場で急成長を遂げ、創業者は「100兆ドル規模のエコシステムを築く」と野心的な目標を掲げる。また、云鲸 (Narwal) はIT大手のテンセントから出資を受けて新規株式公開 (IPO) を目指しており、シャオミ (Xiaomi) は圧倒的なコストパフォーマンスで低価格市場を席巻している。技術革新と価格破壊が同時に進む中国市場は、一瞬の戦略ミスや経営の空白が企業の存続を左右する過酷な消耗戦の様相を呈している。
創業者CEOのEV事業傾注が招くガバナンスの空洞化
Roborockの収益性悪化の根源には、創業者兼CEOである昌敬氏の経営姿勢が大きく影響している。同氏は2021年、自動車ブランド「極石汽車 (Jishi Auto)」を立ち上げ、EV開発に本格参入。公の場で「過去1年、私の精力の90%は自動車製造にあった」と語るなど、本業であるロボット掃除機事業から経営資源と自身の関心を事実上シフトさせている。
さらに深刻なのは、2023年から2024年にかけて、昌敬氏が複数回にわたりRoborockの自社株を売却し、累計で約8.88億元(約177億円)を現金化した事実だ。上場企業の創業トップが本業へのコミットメントを欠き、自社株を売却して別事業の資金源とする行動は、コーポレートガバナンス上の重大な問題を提起する。この経営トップの「不在」が組織の求心力を低下させ、熾烈な市場競争への対応を遅らせる最大の要因となっている可能性が指摘される。
日本企業への示唆
Roborockの「増収減益」は、日本企業にとって中国市場のビジネスモデル再考を迫る。同社は世界シェア17.7%で首位を獲得したものの、純利益は31%減少しており、価格競争の激化が利益を圧迫している実態が浮き彫りになった。これは、日本企業が中国市場でシェア拡大を追求する際、安易な価格競争に巻き込まれるリスクを示唆する。ECOVACSが純利益118%増を達成したように、高付加価値製品への注力やコスト管理による収益性改善が、持続的な成長には不可欠となる。
また、創業者CEOの昌敬氏が本業からEV事業「Jishi Auto」に傾注し、Roborockの自社株を約8.88億元(約177億円)売却した事実は、中国企業におけるコーポレートガバナンスの脆弱性を露呈している。これは、日本企業が中国企業と合弁事業やサプライチェーンを構築する際、経営トップのコミットメントやガバナンス体制をより厳しく評価する必要があることを示唆する。特に、技術流出リスクを伴う提携においては、本業への集中度合いや経営陣の長期的な視点を見極めることが重要となる。中国市場での成功は、単なる市場規模だけでなく、パートナー企業の経営の健全性を見極める眼力が問われる時代に入ったと言える。