2024年5月30日、中国の習近平国家主席は、米国の技術規制に対抗するため基礎研究の強化を国家の最優先課題とし、技術自立に向けた国家総動員の方針を表明した。上海で開催された座談会で示されたこの方針は、基礎研究を核心技術開発の源泉と位置づけるもので、新華社通信が報じた。
核心技術の源泉「総スイッチ」としての基礎研究
党総書記、中央軍事委員会主席を兼任する習氏は演説で「基礎研究は科学体系全体の源流であり、あらゆる技術的課題を解決する『総スイッチ』だ」と述べ、その根本的な重要性を強調した。これは、応用研究や製品開発だけでなく、より根源的な科学力の底上げが不可欠であるとの認識を示し、国家として強力な措置を講じるよう求めたものだ。
米国の規制が促す「独創的イノベーション」への転換
この方針の背景には、半導体などの先端技術分野で米国主導の輸出規制に直面する中国の強い危機感がある。習氏は「新たな科学技術革命と産業変革が加速し、世界の競争は基礎研究の最先端分野に集中している」と分析した。他国に依存しない独自の技術体系を確立するため、従来の模倣や改良からの脱却が急務となっている。
スタンフォード大学の「AI Index Report 2024」によると、中国はAI関連の特許公開数では世界をリードする一方、基盤モデルの開発数では米国に大きく差をつけられている。この現状が、源流からの「独創的イノベーション」への転換を国家レベルで急がせている要因の一つである。
国家主導で進める3つの重点施策
習氏が示した方針に基づき、中国は今後、以下の施策に注力する方針だ。
- 持続的な研究開発投資: 国家予算における基礎研究費の割合を大幅に引き上げる。
- トップ人材の育成・誘致: 国内外から最高水準の研究者を確保するための体制を整備する。
- 研究環境の最適化: 自由な発想を促進し、長期的な視点での研究を支援する環境を構築する。
結論:日本への示唆
中国が基礎研究を「総スイッチ」と位置付け、技術自立へ国家総動員を図ることは、日本企業にとって複数の直接的な影響を及ぼす。第一に、中国が国家予算における基礎研究費の割合を大幅に引き上げ、トップ人材の育成・誘致を強化することで、日本の研究機関や企業が優秀な研究者を引き留める、あるいは獲得する競争が激化する。特に、AI関連の特許公開数で世界をリードする中国が、基盤モデル開発で米国に差をつけられている現状を打破しようとすれば、日本のAI関連技術者への引き抜き攻勢が強まる可能性がある。
第二に、中国が「独創的イノベーション」への転換を急ぐことで、従来のサプライチェーンにおける日本の部品・素材メーカーの地位が脅かされるリスクがある。例えば、半導体製造装置や高機能素材など、これまで日本企業が優位性を保ってきた分野で、中国が基礎研究から独自技術を確立し、内製化を進める動きが加速するだろう。これは、日本の特定の産業セクターにとって、輸出機会の減少や市場シェアの喪失に直結する。
第三に、中国が基礎研究の成果を軍民融合で応用する可能性も考慮すべきだ。習近平氏が中央軍事委員会主席を兼任していることから、基礎研究の強化が最終的に軍事技術の向上に繋がる懸念がある。これは、日本の安全保障上のリスクを高めるだけでなく、日本企業が中国市場で事業展開する際に、意図せず軍事転用可能な技術や製品に関与するリスクを増大させる。企業は、技術移転や共同研究の際、より一層のデューデリジェンスが求められる。