中国のAI(人工知能)スタートアップ、Zhipu AI(智譜)AI (Zhipu AI) の企業価値が急騰している模様だ。同社が最新の大規模言語モデル(LLM)「GLM-5」を発表したことを受け、未公開株の取引市場でその評価額がわずか4日間で70%上昇し、時価総額が1,700億香港ドル(約3.4兆円)を突破したと中国メディアが報じた。

なぜ今、重要か

今回の報道は、中国AI業界の「百モデル大戦」とによるとされる熾烈な開発競争の過熱ぶりを象徴している。米国の半導体輸出規制が強化される中、中国では国産AI技術への期待がかつてなく高まっている。Zhipu AI(智譜)AIは、Alibabaテンセントといった巨大テック企業も出資する有力スタートアップであり、その動向は中国の技術的自立の進展を占う試金石となる。ブルームバーグによると、同社は2024年初頭の資金調達ラウンドで既に評価額が30億ドル(約4,700億円)に達しており、今回の急騰が事実であれば、市場の期待が異常なレベルに達していることを示唆する。

清華大学発、国産LLMの旗手

Zhipu AI(智譜)AIの強みは、中国の最高学府である清華大学コンピューターサイエンス学部の研究成果に根差している。同大学の研究室が2006年から開発してきた学術データプラットフォーム「AMiner」の知見を基に、2019年に大学教授や博士課程の学生らがスピンアウトして設立された。産学連携の成功モデルとして注目を集めている。

同社はこれまでに、Alibabaテンセント、美団 (Meituan)、シャオミ (Xiaomi) など50以上の機関投資家や事業会社から累計25億元(約540億円)を超える資金を調達。中国メディアの36Krは、同社を「世界初の大規模モデル上場企業」と評しており、未公開ながらも市場から極めて高い期待を寄せられていることがうかがえる。

「億万長者」生む未公開株市場の熱狂

評価額の急騰は、従業員にも大きな富をもたらした。報道によると、従業員の半数が自社株を保有しており、その平均資産価値は1,000万香港ドル(約2億円)を超え、多くの「億万長者」が誕生したという。これは、中国のハイテク業界で優秀な人材を惹きつける強力なインセンティブとして機能しているストックオプション文化を浮き彫りにする。

北京市海淀区では、Zhipu AI(智譜)AIのほかにも、Moonshot AI月之暗面) (Moonshot AI) や百川智能 (Baichuan AI) といったAIスタートアップが次々と大型の資金調達に成功。技術者たちがAI開発を通じて巨万の富を築く事例が相次いでおり、業界全体の活況を物語っている。

技術解説: 新モデル「GLM-5」の実力

今回発表された「GLM-5」は、Zhipu AI(智譜)AIの技術力の集大成と位置づけられる。同社は、新モデルがOpenAIの「GPT-4o」に匹敵、あるいは一部の性能で凌駕すると主張している。

  • モデル性能: 主にな性能評価ベンチマークであるMMLUやGSM8Kにおいて、GPT-4oと同等以上のスコアを記録したと公表。特に中国語の理解と生成能力において、他の追随を許さないレベルに達しているとされる。
  • モデル効率とコンテキスト長: アーキテクチャの詳細は不明だが、推論コストを大幅に削減しつつ、長い文脈を理解する能力が向上しているとみられる。競合のMoonshot AI月之暗面) (Kimi) が200万トークンのコンテキスト長を実現しており、GLM-5も同等以上の性能を目指している可能性が高い。
  • マルチモーダル機能: テキストだけでなく、画像、音声、動画を統合的に処理する能力を備える。これにより、より複雑なタスクへの応用が期待される。
  • 訓練データ: Zhipu AI(智譜)AIの強みは、清華大学との連携を通じてアクセスできる高品質で大規模な中国語データセットにある。これが、国内の競合他社に対する優位性の源泉となっている。

日本市場への影響

Zhipu AIの株価が4日間で70%高騰し、時価総額が1700億香港ドル(約3.4兆円)を突破したことは、日本企業にとってAI分野における競争環境の激化を明確に示唆する。特に、清華大学発のスタートアップが「世界初の大規模モデル上場企業」と称されるまでに成長した事実は、中国が学術研究と産業化の連携において急速に成果を出していることを浮き彫りにする。

まず、日本企業は、GLM-5のような新型基盤モデルの開発競争において、中国勢が技術力と資金力を背景に先行している現状を直視する必要がある。Zhipu AIの成功は、Moonshot AIGalbotといった他の北京のAIスタートアップの台頭と合わせて、中国がAI技術のイノベーションハブとしての地位を確立しつつあることを示している。これは、日本企業がAI関連技術で中国企業との協業を模索する機会となりうる一方で、自社開発のAI技術が市場で陳腐化するリスクもはらむ。

次に、従業員の半数が自社株を保有し、平均資産価値が1000万香港ドルを超える「億万長者」が多数誕生したという報道は、中国のAI産業が優秀な人材を惹きつける強力なインセンティブを提供していることを示す。日本企業がAI分野で競争力を維持するためには、単に技術開発だけでなく、人材獲得と定着のための報酬制度や企業文化の変革が喫緊の課題となる。高騰する中国AI企業の給与水準は、日本のAIエンジニアの海外流出を加速させる可能性も秘めている。

出典・参考