2025年に入り、世界のAI市場は概念実証の段階を終え、初期の商業化フェーズへと移行した。米国のPerplexityやElevenLabsといったスタートアップが大きな収益を上げる中、中国のテクノロジー大手もAI開発を加速させているが、その戦略には明確な違いが見られる。
三者三様の中国テック大手
中国の巨大IT企業であるByteDance、Alibaba、テンセントは、それぞれ異なるアプローチでAIに取り組んでいる。
ByteDance (ByteDance) は、AIアシスタントアプリ「豆包 (Doubao)」を軸に、AIの社会実装を積極的に推進している。同社の強力なコンテンツ配信能力を活かし、ユーザーへの浸透を図る。
Alibaba (Alibaba) は、自社開発の大規模言語モデル「Qwen(通義千問) (Tongyi Qianwen)」をオープンソース化。開発者向けプラットフォームのHugging Faceでは、ダウンロード数が7億回を超えるなど、技術基盤の提供者としての地位を固めつつある。
一方、テンセント (Tencent) のAIアシスタント「元宝 (Yuanbao)」は、1日あたりのアクティブユーザー数が200万〜300万人規模とされ、先行する2社に比べて控えめな滑り出しとなっている。
応用重視のテンセント、保守戦略の背景
テンセントのAI戦略は、競合他社と比較して保守的との見方が強い。中国メディアの報道によると、同社はソーシャル分野とコンテンツ事業が経営の根幹であると考えており、必ずしも大規模言語モデルの基盤開発競争に全力を投じる必要はないとの立場だ。
むしろ、テンセントのAI戦略の重点は、既存の膨大なユーザー基盤とサービス群への「応用」にある。自社のゲーム、SNS、決済といった多様な事業にAI技術を最適化し、サービス全体の価値向上を目指すアプローチを取っている。これは、基盤モデル開発の莫大なコストを避けつつ、着実に収益化を狙う現実的な戦略とも言える。
日本の関連性
中国テック大手3社のAI戦略分化は、日本企業にとって事業連携の機会と競争圧力の双方をもたらす。Alibabaが大規模言語モデル「Qwen(通義千問)」のダウンロード数を7億回超とし、技術基盤提供者としての地位を固めることは、日本企業が同社のオープンソース技術を活用し、自社AI開発のコストと時間を削減できる可能性を示唆する。特に、製造業やサービス業におけるAI導入を検討する企業は、Alibabaの技術スタックを基盤としたソリューション開発を加速できる。
一方、テンセントがAIアシスタント「元宝」の1日あたりのアクティブユーザー数を200万〜300万人規模とし、既存事業への応用を重視する戦略は、日本のコンテンツ企業やゲーム開発企業にとって新たな協業の道を開く。テンセントの膨大なユーザー基盤とSNS、ゲーム事業にAIを統合する動きは、日本のIP(知的財産)やサービスが中国市場でAIを介して展開される機会を創出する。例えば、日本のゲーム会社がテンセントのAIを活用したゲーム内体験向上や、マーケティング連携を模索できる。
しかし、ByteDanceがAIアシスタントアプリ「豆包」でAIの社会実装を推進し、強力なコンテンツ配信能力を活かす動きは、日本のデジタルコンテンツ市場への新たな競争圧力となる。同社のAIを活用したコンテンツ生成・配信能力が向上すれば、日本のメディア企業や広告業界は、より高度なパーソナライゼーションと効率的なコンテンツ流通を迫られるだろう。日本企業は、単なる中国市場への参入だけでなく、中国企業のAI戦略を理解し、自社の競争優位性を再構築する必要がある。