中国の音楽業界で、人工知能 (AI) による音楽生成技術が急速に普及している。一般ユーザーでも手軽に楽曲を制作できるようになった一方、著作権侵害を巡る問題が深刻化し、大手IT企業と音楽レーベルとの間で対立が表面化している。
AI音楽の急拡大と著作権の課題
AI音楽生成技術の進化は著しく、中国国内では短尺動画プラットフォームを中心に、AIが作曲した楽曲の利用が急増している。SunoなどのAIプラットフォームにより、ユーザーは多様な楽曲を容易に作成できるようになり、音楽制作の裾野が広がった。しかし、AIの学習データとして使われる既存楽曲の著作権処理が不透明なまま生成された楽曲が流通し、クリエイターや権利者の権利を侵害する懸念が高まっている。
大手レーベルとの対立表面化
AI音楽生成における最大の課題は著作権侵害だ。多くのAIプラットフォームが、著作権者の許諾を得ずに既存楽曲を学習データとして利用していると指摘されている。これに対し、音楽出版社やレコード会社は訴訟も辞さない構えを見せている。特に、2024年4月には、ユニバーサルミュージック・グループとAI音楽プラットフォームSunoとの著作権交渉が決裂したと報じられ、問題の根深さを示した。
テンセント、NetEaseなど大手IT企業の戦略
著作権問題が浮上する中、中国の大手IT企業はAI音楽分野への投資と対応を加速している。テンセント・ミュージックは、自社開発のAI音楽プラットフォーム「VEMUS」を立ち上げ、AIボーカル機能を導入した。一方、NetEase (NetEase(網易)) 傘下のNetEase Cloud Musicは、AI生成楽曲の収益を大幅に引き下げる措置を講じた。同社の朱一聞CEOは「AIは最高の玩具だ」と述べ、技術の可能性を認めつつも事業化には慎重な姿勢を示している。また、ByteDance傘下のSoda Music (汽水音楽)は、短尺動画アプリ「Douyin (Douyin(抖音))」との連携を強化し、AIによるBGM生成機能などを実装している。
日本への影響と今後の展望
中国におけるAI音楽の著作権問題は、日本のコンテンツ産業に直接的な影響を及ぼす。まず、ユニバーサルミュージック・グループとSunoの著作権交渉決裂は、グローバルな音楽業界におけるAI学習データの利用許諾に関する前例となりうる。日本のレコード会社や音楽出版社も、自社楽曲が無許諾でAIに学習され、生成物が流通するリスクに直面しており、国際的な協調による権利保護の枠組み構築が急務となる。
次に、テンセント・ミュージックの「VEMUS」やByteDance傘下のSoda MusicがAIボーカル機能やBGM生成を強化している点は、日本の音楽クリエイターやアーティストにとって新たな協業機会となる可能性がある。特に、Douyinのような短尺動画プラットフォームは日本でも広く利用されており、中国発のAI生成音楽が日本のユーザーに浸透するにつれて、日本のアーティストがこれらのプラットフォームを通じて中国市場へ進出する道も拓かれる。
一方で、NetEase Cloud MusicがAI生成楽曲の収益分配を引き下げた事例は、日本の音楽サブスクリプションサービスやプラットフォーム事業者にとって、今後のAI生成コンテンツの収益モデルを検討する上での重要な示唆となる。AI生成コンテンツの増加は、既存の著作権管理や収益分配の仕組みに大きな変革を迫るため、日本の音楽業界は中国の動向を参考に、AI時代に対応したビジネスモデルの再構築を急ぐ必要がある。