中国で今年の春節(旧正月)連休中、シニア層の間でAI(人工知能)を活用したサービスが急速に普及した。大手IT企業が展開する「AI紅包(AIお年玉)」をきっかけに、AIによる動画作成や料理レシピの検索など、新たなデジタル体験を楽しむシニア層が増えている。

「AIお年玉」が起爆剤に

北京市在住の李航さん(仮名)は、春節期間中、家族のWeChat(ウィーチャット)のグループチャットで祖父母世代の親戚たちが「AIお年玉」を送り合っていることに驚いたという。これまで新しいデジタルツールに抵抗があった祖父も、大手IT企業のキャンペーンを機に使い方を学習。李さんが1時間ほど教えると、すぐに操作を覚えて20元(約400円)以上を獲得した。

李さんの祖父は、地元の友人たちにもAIお年玉の使い方を広めているという。中国のSNS上では、同様にシニア層がAIを使いこなす事例が数多く報告されている。

動画作成や料理にもAI活用

こうした動きは電子お年玉だけにとどまらない。60代の張さん(仮名)はAIによる動画作成を学び、春節期間中に孫のために作成した動画を家族に共有し、周囲を驚かせた。中国メディアによると、張さんは「操作は思ったより簡単だった」と話している。

また、57歳の王さん(仮名)は、AIアシスタントを活用して新しい料理を習得し、大晦日のご馳走を家族に振る舞った。「AIが料理を教えてくれるとは思わなかったが、試してみたら新しい世界の扉が開いた」と語る王さんは、今では日常的にAIにレシピを尋ねているという。

日本企業への示唆

中国シニア層のAI活用ブームは、日本の高齢化社会におけるデジタルデバイド解消と新たな市場創出に直接的な示唆を与える。まず、大手IT企業の「AI紅包」キャンペーンのように、金銭的インセンティブや具体的な「お得感」を伴う導入は、日本の高齢者層のデジタルツール利用促進に有効な可能性が高い。李航さんの祖父が20元以上を獲得した事例は、少額でも確実な利益が初期の抵抗感を打ち破る起爆剤となり得ることを示している。日本の金融機関や通信キャリアが、高齢者向けにAIを活用した少額のポイント付与や割引サービスを導入することで、デジタルサービスの利用を促せるだろう。

次に、張さんが孫のためにAIで動画を作成したり、王さんがAIアシスタントで料理レシピを習得したりする事例は、単なる利便性向上に留まらない、自己表現や生活の質の向上という側面を浮き彫りにする。これは、日本の介護・医療分野におけるAI活用にも応用可能だ。例えば、AIが認知症患者の過去の思い出を基にパーソナライズされた動画を自動生成したり、高齢者が自身の健康状態に合わせた献立をAIに提案させたりするサービスは、生活の質を高め、新たな市場を形成する。

最後に、中国のシニア層が自らAIの使い方を広める「口コミ」の力は、日本の地域社会におけるデジタル化推進のヒントとなる。公民館や老人会といったコミュニティで、AI活用事例の共有会や体験会を設けることで、デジタルに不慣れな層が安心してAIに触れる機会を創出できる。これは、日本政府が推進する「デジタル田園都市国家構想」における高齢者のデジタル活用推進にも寄与するだろう。