中国で、生成AIの急速な普及に伴い知的財産権の侵害などをめぐる法的紛争が深刻化している。これを受け中国最高人民法院(最高裁)は2024年4月、AI技術を活用して著作権侵害の立証を支援する新システムを全国で本格導入した。これにより、中国でAI事業を展開する企業は、学習データの合法性証明など、より厳格なコンプライアンス対応を迫られる。

北京大学国際知的財産研究センターの唐青林(タン・チンリン)研究者によると、AI時代の権利侵害は「学習データによる侵害」「生成コンテンツによる侵害」「商業機密の侵害」「AIによる権利侵害の補助」の4類型に大別されるという。

AI規制と著作権法の適用

中国当局はAI技術の利用を規制する法整備を急いでいる。現行の「著作権法」は複製権や公衆送信権を定めており、唐氏は、権利者の許可なく著作物を学習データに利用すれば「複製権」の侵害、AIが生成した侵害コンテンツをインターネット上で配信すれば「公衆送信権」の侵害に当たるとの見解を示す。

この法的枠組みに加え、当局は技術的な監視網を構築した。新華社通信によると、最高裁が導入を推進した「著作権AI審査支援システム」がその中核を担う。このシステムは、ブロックチェーンやAI鑑定技術を駆使し、権利者が侵害の証拠を収集する際の技術的ハードルを大幅に下げるものだ。法制度と技術の両面からなる「二重の保障」により、AI企業への監視は一層厳しくなっている。

民法典が定めるプラットフォームの責任

中国の「民法典」は、ネットワークサービス提供者の責任を明確に定めている。唐氏は、AI開発者や利用者、プラットフォーム事業者の民事責任を認定する際、「過失責任原則」や「侵害幇助責任」が厳格に適用されると指摘する。今後、中国で事業を行う企業にとって、アルゴリズムの透明性と学習データの合法性の証明は、事業継続の生命線となる。

司法判断と登録制の現状

中国は2024年初頭、AI生成画像の著作権を認める判決や、逆にキャラクターの特徴を模倣したAI画像への侵害を認める判決を下すなど、世界に先駆けて司法判断を積み重ねている。また、中国で一般公開される生成AIモデルは、国家インターネット情報弁公室(CAC)へのアルゴリズム登録と安全審査が事実上義務化され、法的な追跡可能性が確保されている。

日本企業への示唆

中国のAI著作権侵害に対する新システム導入は、日本企業に直接的な影響を及ぼす。まず、中国市場で生成AIサービスを提供する日本企業は、学習データの合法性証明が必須となる。例えば、画像生成AIを手掛ける日本のスタートアップが中国展開を考える場合、使用した全画像の権利関係を遡及的に確認し、その合法性をブロックチェーン技術を活用した「著作権AI審査支援システム」で証明する義務が生じる。これにより、データ収集コストの増大や、データソースの選定における制約が厳しくなるだろう。

次に、中国の「民法典」に基づくプラットフォームの責任強化は、中国で事業展開する日本のIT大手にも影響する。例えば、SNSやコンテンツ配信プラットフォームを運営する企業は、ユーザーがAIを用いて生成・投稿するコンテンツの著作権侵害リスクをこれまで以上に厳格に管理する必要がある。AI生成コンテンツが権利侵害と判断された場合、「侵害幇助責任」を問われ、多額の賠償金を請求される可能性が高まる。

さらに、国家インターネット情報弁公室(CAC)へのアルゴリズム登録と安全審査の義務化は、中国市場への新規参入障壁を高める。日本のAI開発企業が中国でサービスを展開するには、アルゴリズムの透明性を確保し、中国当局の審査基準を満たすための時間とコストを覚悟しなければならない。これは、技術競争力だけでなく、コンプライアンス体制の構築が中国事業成功の鍵となることを示唆している。