米アップルでハードウェアエンジニアリング部門を率いるジョン・ターナス上級副社長が、ティム・クック最高経営責任者(CEO)の後継として有力視されている。同氏はAI時代の競争力の鍵はハードウェアにあるとの戦略を掲げており、アップルが長年培ってきた半導体の自社開発と垂直統合モデルをさらに深化させる可能性が高い。

ハードウェア部門トップ、ターナス氏の経歴

ジョン・ターナス氏は2001年にアップルに入社して以来、20年以上にわたり製品設計に携わってきたベテランだ。iPodやiPhoneの初期モデルから、近年のMacに搭載されている「Mシリーズ」チップの開発まで、同社の主に製品のハードウェア開発を主導してきた実績を持つ。2021年にハードウェアエンジニアリング担当の上級副社長に就任し、アップルの技術戦略の中核を担っている。

自社製チップが支えるAI戦略

アップルは2010年に発表した「A4」チップを皮切りに、半導体の自社開発を推進してきた。特に、AI処理に特化した「Neural Engine」や、PCの性能を飛躍的に向上させた「Mシリーズ」チップは、同社の強さの象徴だ。ハードウェアとソフトウェアを自社で一貫して開発する垂直統合モデルにより、他社にはない最適化されたパフォーマンスと電力効率を実現。これが、デバイス上でAI処理を行う「エッジAI」戦略の基盤となっていると、米メディアThe Vergeは報じている。

垂直統合モデルの優位性と今後の展望

AI開発競争が激化する中、多くの企業がNVIDIAなどの外部製半導体に依存している。一方、アップルは自社製品に最適化した半導体を設計することで、開発の主導権を握り、独自の機能や体験を創出しやすい。ターナス氏がCEOに就任すれば、このハードウェア主導のアプローチは一層強化されると見られる。半導体設計から最終製品までを自社でコントロールする戦略が、今後のAI時代におけるアップルの優位性を決定づけるかどうかが焦点となる。

日本への影響

ターナス氏がアップルの次期CEOに就任し、ハードウェア主導のAI戦略を加速させることは、日本の半導体関連企業にとって明確な機会とリスクをもたらす。まず、アップルが「Mシリーズ」チップのような自社製半導体の開発をさらに深化させる場合、半導体製造装置や素材を提供する日本のサプライヤーには大きなビジネスチャンスが生まれる。例えば、東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった企業は、アップルの生産量増加に伴う設備投資拡大の恩恵を受ける可能性が高い。

一方で、アップルの垂直統合モデルの強化は、日本のエレクトロニクス企業がアップル製品のサプライチェーンに部品供給する際の競争を激化させる。特に、イメージセンサーやディスプレイなどの汎用部品においては、アップルが自社設計や特定のサプライヤーへの集中を進めることで、既存の日本企業が排除されるリスクがある。例えば、ソニーグループのイメージセンサー事業は、アップルの戦略転換によっては影響を受ける可能性がある。

さらに、アップルがエッジAI戦略を推進し、デバイス上でのAI処理能力を向上させることは、日本のソフトウェア開発企業やコンテンツプロバイダーにとって、新たなアプリケーション開発のプラットフォームを提供する。アップルのエコシステム内で独自のAIサービスやコンテンツを展開することで、日本企業はグローバル市場での存在感を高める機会を得る。しかし、アップルの厳しい品質基準やエコシステムへの適合が求められるため、参入障壁も高まる。