中国の人工知能(AI)産業が、収益化と物理世界への実装という新たな局面を迎えている。検索大手のバイドゥ (Baidu) が発表した2026年第1四半期決算で、AI関連事業の売上高が初めて全体の5割を突破。時を同じくして、新興企業が開発したAIモデルが人型ロボットの「脳」として、中国で初めて政府の認可を取得した。クラウド上のAIと、現実世界で稼働するロボットAIの両輪が回り始め、中国のAIエコシステムは急速な進化を遂げている。
バイドゥ、AI事業が収益の柱に 転換鮮明
バイドゥが5月中旬に発表した2026年第1四半期(1-3月期)決算によると、総売上高は前年同期比2%増の321億元(約6,420億円)となった。この中で、AI関連事業の売上高は136億元に達し、一般事業収入の52%を占めた。AI事業が売上高の過半を占めるのは同社史上初めてとなる。ロビン・リー (李彦宏、Robin Li) 会長兼 CEOは決算説明会で「AIが当社の核心的な駆動力となった」と述べ、検索エンジン企業から本格的なAI企業への事業構造転換が完了したことを示した。
特に、AIモデルの学習や推論に用いるクラウドサービスの収入が急拡大している。同社のAIクラウド事業の売上高は前年同期比で68%増加し、中でも大規模言語モデル(LLM)関連の売上は成長を牽引した。これは、中国国内でアリババ集団やテンセントといった大手IT企業から新興企業までがAI開発競争を繰り広げる中、バイドゥのLLM「ERNIE Bot (アーニーボット、文心一言)」とそれを支えるクラウド基盤の需要が旺盛であることを裏付けている。
「身体性AI」が政府公認、産業化へ加速
クラウドAIの収益化が進む一方、AIの物理世界への展開も具体化している。上海の AI スタートアップ Agibot (アジボット、Agibot)が開発した対話モデル「WITA」が、中国で初めて「身体性AI(Embodied AI)」として政府のコンプライアンス届出を完了したことが、複数の中国メディアの5月14日付報道で明らかになった。
身体性AIとは、カメラやセンサーからの情報を通じて物理環境を認識し、自律的に判断・行動するAIを指す。主に人型ロボットの「脳」として機能し、複雑な作業の実行を可能にする。今回の政府認可は、中国のロボットAIが研究開発段階を終え、法令を順守した商用化フェーズへ移行したことを意味する。これは、米国の技術規制に対抗し、AIとロボティクスを融合させた「新質生産力」の中核産業を国家戦略として育成しようとする中国政府の強い意志の表れと見られる。
クラウドと物理世界を繋ぐエコシステム競争
バイドゥのAI収益化とAgibotのロボットAI商用化は、一見すると個別の事象だが、構造的には中国が目指すAIエコシステム戦略の進展を示している。バイドゥやAlibabaが提供する強力なクラウドAI基盤が、Agibotのような新興企業による高度なロボット開発を支える構図だ。業界アナリストの見方では、これはクラウド上の「知能」と物理世界の「身体」が連携し、相互に進化を促すエコシステムの形成を意味する。
この動きは、2021年に始まった中国政府の第14次5カ年計画で示された「AIと実体経済の深い融合」という方針を具現化するものだ。過去、中国はECプラットフォーム(Alibaba)や決済システム(アリペイ/WeChatペイ)で巨大なデジタルエコシステムを構築した。同様の戦略を、今度はAIとロボティクスを核とする物理的な産業領域で再現しようとしている可能性がある。米国のFigure AI(OpenAIと提携)やテスラの「Optimus」が先行する人型ロボット分野で、中国は国家主導のエコシステム構築によって追撃を図る構えだ。
日本への影響と示唆
バイドゥのAI事業売上が5割を超えたことは、日本企業にとって大きな影響を与える。特に、AIモデルの学習や推論に用いるクラウドサービスの収入が急拡大していることから、日本のIT企業はクラウドサービス市場で中国企業と競合する必要がある。さらに、ロボットAIの商用化が進むことで、日本の製造業は生産性の向上や新しいビジネスモデルの創出を模索する必要がある。
バイドゥのAI事業の収益構造の転換は、日本企業がAI技術の開発と応用に注力する必要性を示唆する。特に、LLM関連の売上が成長を牽引していることから、日本のIT企業はLLM技術の開発と応用に投資する必要がある。また、AgibotのロボットAIが政府の認可を取得したことから、日本のロボット製造業は中国市場での競争力を高める必要がある。
中国のAIエコシステム戦略の進展は、日本企業が中国市場での競争力を高めるために、AI技術の開発と応用に注力する必要があることを示唆する。特に、クラウドAI基盤とロボット開発の融合は、日本のIT企業とロボット製造業が協力して新しいビジネスモデルの創出を模索する必要がある。さらに、中国政府の第14次5カ年計画で示された「AIと実体経済の深い融合」という方針は、日本企業が中国市場での競争力を高めるために、AI技術の開発と応用に注力する必要があることを示唆する。
中国 AI クラウド市場と日本ロボティクス銘柄
中国 AI クラウド市場シェア (2025、IDC China):
| 順位 | 企業 | シェア |
|---|---|---|
| 1 | アリババクラウド | 35.8% |
| 2 | Volcano Engine (ByteDance) | 14.8% |
| 3 | 華為 (Huawei) クラウド | 13.0% |
| 4 | バイドゥ AI クラウド | 約 9% |
| 5 | テンセントクラウド | 8.5% |
バイドゥの AI クラウド売上 136 億元 (+68% YoY) は、国家補助金 + ERNIE Bot 企業向け API 課金が牽引。バイドゥの時価総額は 2026 年 5 月時点で約 280 億ドル。
世界ロボティクス市場規模 (国際ロボット連盟 IFR):
| 年度 | 産業用ロボット出荷 | 中国シェア |
|---|---|---|
| 2024 | 60 万台 | 52% (約 31 万台) |
| 2030 予測 | 100 万台超 | 55% 前後 |
ロボティクス関連の日本企業:
- ファナック (6954) — 売上 7,200 億円、産業用ロボット世界首位級、中国売上比率 38%
- 安川電機 (6506) — 売上 5,500 億円、ロボット世界 4 強、中国売上比率約 30%
- ニデック (6594) — 売上 2.4 兆円、モーター世界最大、ロボット・EV 軸
- ハーモニック・ドライブ・システムズ (6324) — 売上 480 億円、波動歯車減速機世界シェア 80%
- THK (6481) — 売上 3,900 億円、LM ガイド世界最大
- ナブテスコ (6268) — 売上 3,300 億円、精密減速機 RV 世界シェア 60%
- ソフトバンクグループ (9984) — Agibot・SenseTime・ByteDance 等の中国 AI に多額投資