ブロードコムのAI半導体売上が2026年5〜7月期に前年同期比143%増の108億ドルへ。みずほ証券のGoogle TPU3,500万個説の真偽を、カウンターポイントの1,500万個推計、Tomahawk 6の102.4Tbps接続層、OpenAI10GW契約、VMwareの粗利構造から一次データで深掘りする。
ブロードコムのAI半導体売上が2026年5〜7月期(第2四半期)に前年同期比143%増の108億ドルへ伸び、カスタムASIC(特定用途向け半導体)とAIネットワーキングの二本柱が同社をエヌビディアに次ぐAI銘柄に押し上げた。会社は8〜10月期のAI半導体売上を前年同期比200%超増の160億ドルと見込み、2027年度には100億ドル超を再確認している。一方、みずほ証券が6月に示したGoogle向けTPU(グーグルのAI演算チップ)3,500万個という2028年予測は、市場の一部に「大きすぎる」との声を呼んだ。派手な数字の真偽より、グーグルやメタ、OpenAIの自前AIスタックで同社が迂回しにくい中核を占める構造に、日本の投資家はまだ十分に目を向けていない。
143%増を生んだ二本柱
ブロードコムの決算は記録ずくめだった。2026年5月3日に終えた第2四半期の総売上は前年同期比48%増の222億ドル、うちAI半導体は143%増の108億ドルで会社予想を上回った。次の第2四半期に当たる8〜10月期は、AI半導体だけで200%超増の160億ドルへ伸びる見通しを示し、全社売上も84%増の294億ドルを見込む。ホック・タン最高経営責任者(CEO)は決算電話会議で、カスタムチップのコア顧客が6社あり、そこにAnthropic、グーグル、メタ、OpenAIが含まれると明らかにした。
それでも株価は6月3日の発表後に下落した。売られた理由は、AI以外のインフラソフト売上が市場予想に届かず、通期のAI半導体見通しが上方修正ではなく据え置きにとどまったためである。需要の強さを示す143%増という数字と、年間見通しを上げなかった慎重さの落差が、過熱した期待の調整を招いた。利益の柱がAIへ急速に傾く局面で、市場は伸び率の絶対値より「見通しをどこまで引き上げるか」を見ている。記録的な四半期がそのまま株高に直結しない点に、AI関連株の評価がガイダンスの限界改善に依存する構造がにじむ。
なぜ35M TPUは夢想なのか
みずほ証券のチャネルチェック(取引先への聞き取り調査)は、グーグル単独のTPU出荷が2028年に3,500万個へ達し、2026〜28年で累計約5,000万個に上る可能性を示した。AI半導体売上のモデルは2026年度の約700億ドルから、2027年に1,220億ドル、2028年に1,700億ドルへ跳ね、グーグルとの提携だけで累計6,000億ドルの機会があるとする。数字の勾配は急で、強気の上限を測る負荷試験の色彩が濃い。
懐疑論の根拠も具体的だ。調査会社カウンターポイントは、全hyperscaler(大手クラウド事業者)を合計しても2028年のASIC出荷は約1,500万個にとどまると見込む。グーグル単独で3,500万個という前提は、業界全体の推計を倍以上上回る。実現には、TSMCの先進実装CoWoS(2.5次元の高密度パッケージング)とHBM(積層型の広帯域メモリ)の生産枠、電力、データセンター建設、ブロードコムの実行力が「すべて順風」である必要がある。高性能AIアクセラレータは1個あたり0.5〜1キロワット級を消費し、10ギガワット規模のクラスタは数百万〜2,000万個のチップを要する。電力と冷却が先に天井を打つため、3,500万個は可能性の上限であって基準値ではないとみられる。
Tomahawk 6が握る接続層
過小評価されがちなのが接続層、すなわちネットワーキングの価値である。ブロードコムのAI売上のうち約4割は演算チップではなくネットワーキング半導体が稼ぎ、この比率は四半期ごとに高まっている。第1四半期にはネットワーキングが前年同期比60%増と、全体の伸びを牽引した。象徴が2025年に出荷を始めたイーサネットスイッチ「Tomahawk 6」で、単一チップで世界初の102.4テラビット毎秒という、市場の既存品の2倍の交換容量を持つ。
技術の核は、数万〜百万個規模のチップを一台の機械として動かす血管の役割にある。Tomahawk 6は光素子を同一基板に載せる共パッケージ実装(CPO)に対応し、100G/200GのSerDes(高速信号変換回路)で帯域を確保する。クラスタが巨大化するほど、データがどう流れ、遅延をどう抑え、ファブリックをどう広げるかが性能とコストを決める。スケールアップ(密結合)とスケールアウト(分散拡張)の双方をイーサネットで束ねる設計は、エヌビディアが主導するインフィニバンドへの対抗軸になる。日本では「スイッチはコモディティ」との見方が根強いが、百万チップ級では接続層こそが差別化の源泉に転じている。
カスタムASICの迂回しにくさは本物か
設計提携の深さが、ブロードコムの位置を堅くしている。同社はグーグルのTPU、メタのMTIA、OpenAIの専用チップで、設計・先進実装・ネットワーキングを束ねる中核を担う。技術はN3やN2の微細ノードに、CoWoS-SやCoWoS-Lと3次元積層のSoICを組み合わせ、メモリはHBM3EからHBM4へ移る。顧客の自社設計に深く食い込むほど、単発のチップ供給では代替できない関与が積み上がる。
象徴が2025年10月に発表したOpenAIとの提携で、設計をOpenAIが、開発と配備をブロードコムが担い、10ギガワット規模のAIアクセラレータをイーサネットで全面接続する。配備は2026年後半に始まり2029年末に完了する計画で、シティは累計1,000億ドル、みずほ証券は1,500億〜2,000億ドルの規模と試算する。エヌビディアの汎用GPUを「買う」段階から、ワークロードに合わせた自社チップと自社ネットワークへ移る潮流のなかで、ブロードコムは設計と接続の両面で最も迂回しにくい位置を取った。同社が「エヌビディアの隣の部品屋」ではなく、hyperscaler自前スタックの底流に座る理由がここにある。
VMwareが効く粗利の盾
収益の質も評価を複雑にする。仮想化ソフトのVMwareを中核とするインフラソフト事業は、粗利率が9割前後と半導体を大きく上回り、TSMCの実装枠やHBM争奪で資本負担が重い半導体事業の緩衝材になる。全社の粗利率は8割弱で、AI設備投資の波が荒くても、ソフトの安定したキャッシュフローが下支えする。純粋な半導体株として見るか、AIインフラの基盤を握るソフト込みの企業として見るかで、評価の物差しが変わる。
ただしこの盾は両刃である。6月3日の株価下落の直接の引き金は、AIの好調ではなくインフラソフト売上の予想未達だった。高粗利のソフトが安定をもたらす一方、その伸びが鈍ればAIの記録的成長を打ち消すほどの失望を生む。VMware統合後の値上げと顧客のサブスクリプション移行が一巡すれば、ソフトの成長率は落ち着くとみられ、半導体の勢いとソフトの成熟をどう一つの評価に織り込むかが、株価の振れ幅を決める。記録的なAI売上が即座に株高にならなかった事実は、この二層構造の難しさを映している。
| 予測主体 | 内容 | 数値 | 時点 |
|---|---|---|---|
| ブロードコム(会社) | AI半導体売上(実績) | 108億ドル(前年同期比+143%) | 2026年5〜7月期 |
| ブロードコム(会社) | AI半導体ガイダンス | 160億ドル(+200%超) | 2026年8〜10月期 |
| ブロードコム(会社) | AI半導体売上見通し | 1,000億ドル超 | 2027年度 |
| みずほ証券 | Google TPU出荷(強気) | 3,500万個 | 2028年 |
| みずほ証券 | TPU累計/AI売上モデル | 5,000万個/1,700億ドル | 2026〜28年 |
| Counterpoint | 全hyperscaler ASIC合計 | 約1,500万個 | 2028年 |
日本企業が直面する選択
機会の側から見れば、第一に、ブロードコムはエヌビディア一極集中の代替軸になる。AIネットワーキングがAI売上の約4割を占め、設計提携で迂回しにくい位置を取る同社を組み入れれば、生成AI関連株の集中リスクを「システム統合レイヤー」へ分散できる。第二に、FY2027のAI半導体100億ドル超という会社見通しと、Q2の143%増という実績は、夢想ケースに依らずとも成長の地盤が固いことを示す。みずほの3,500万個ではなく、ブロードコム自身のガイダンスとカウンターポイントの1,500万個の間に基準値を置くのが堅い。
リスクは三つある。第一に、3,500万個を前提に置く強気は、電力・実装枠・実行力のいずれかが詰まれば崩れ、ASP(平均販売単価)やシェアの変動も読みにくい。第二に、高粗利のVMwareは盾であると同時に、その失速が記録的なAI成長を打ち消す弱点でもある。第三に、CoWoSとHBMの生産枠、データセンターの電力という有限資源の奪い合いは、日本企業が国内でAIクラスタを建てる際の制約にも直結する。エヌビディアと国内のラピダスやメモリ各社の議論に偏らず、接続層とカスタム設計で価値を掴むブロードコム型の発想を、電力制約を抱える日本のAIインフラ戦略へどう取り込むかが問われるとみられる。
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