動画投稿アプリ「TikTok」を運営する中国のテクノロジー大手ByteDance (ByteDance) が、AI(人工知能)モデルの訓練と推論に特化した独自の半導体開発を本格化させていることが明らかになった。米国の対中半導体輸出規制が強まる中、サプライチェーンの自給自足と、自社サービスの競争力維持を目指す動きとみられる。

米国規制への対抗とサプライチェーン内製化

今回の動きの背景には、米国政府による先端半導体および製造装置の対中輸出規制強化がある。これにより、中国企業はAI開発に不可欠なNVIDIA製の高性能GPU(画像処理半導体)の調達が極めて困難になっている。ByteDanceはこれまで、AIサービスの基盤をNVIDIA製GPUに大きく依存してきた。

独自のAI半導体を開発することで、同社は外部への依存度を低減し、地政学リスクに対応した安定的なサプライチェーンの構築を急ぐ考えだ。開発されたチップは、台湾のTSMCなどファウンドリ(半導体受託製造企業)に生産を委託する計画だと、複数の業界関係者が指摘している。

AIサービス高度化への布石

ByteDanceが開発するAI半導体は、同社の主力サービスであるTikTokや中国版の「Douyin(抖音) (Douyin)」で使われる推薦アルゴリズムのほか、現在開発中とされる大規模言語モデル (LLM) の性能向上を目的としている。自社設計のチップを用いることで、AIの訓練と推論にかかる運用コストを大幅に削減できる可能性がある。

高性能な独自チップは、より複雑で精度の高いAIモデルの運用を可能にし、ユーザー体験の向上や新たなサービス展開に直結する。これにより、同社は激化するAI開発競争での優位性を確保する狙いだ。

中国テック大手、相次ぐ半導体参入

AI半導体の内製化に動くのはByteDanceだけではない。中国のテクノロジー大手は、米国の規制強化を機に、こぞって半導体の自社開発に乗り出している。新華社通信によると、Alibaba傘下のT-Head(平頭哥半導体)テンセントも同様に、クラウドサービスやAI応用に向けた独自チップの開発プロジェクトを推進している。

中国政府も「製造2025」計画のもと、半導体産業の国産化を国家戦略として強力に後押ししており、大手企業による開発の動きは今後さらに加速するとみられる。

日本への影響

ByteDanceのAI半導体開発本格化は、日本企業にとって地政学リスクとビジネス機会の両面で具体的な影響を及ぼす。まず、NVIDIA製GPUの調達難が背景にあるため、日本の半導体製造装置メーカーは中国市場での需要変動に備える必要がある。例えば、東京エレクトロンやSCREENホールディングスは、中国の半導体国産化政策の恩恵を受ける可能性がある一方で、米国の輸出規制強化によるサプライチェーンの分断リスクに直面する。

次に、ByteDanceが自社チップでAIモデルの訓練・推論コストを削減できれば、TikTokDouyinの競争力は一層強化される。これは、日本企業がこれらのプラットフォームを活用したマーケティングやプロモーションを行う際の費用対効果に影響を与え、広告戦略の見直しを迫る可能性がある。特に、日本のコンテンツプロバイダーやEコマース企業は、プラットフォーム側の技術進化に合わせた戦略的投資が求められる。

さらに、中国テック大手が相次いで半導体内製化に動くことは、日本の半導体素材・部品メーカーにとって新たな市場機会を生む。TSMCなどファウンドリへの生産委託が進めば、日本の高機能素材や精密部品への需要が高まることが予想される。ただし、米中間の技術覇権争いが激化する中で、日本企業はサプライチェーンにおける立ち位置を慎重に見極め、地政学リスクを考慮した事業戦略を構築する必要がある。