中国とアフリカ連合(AU)が2026年に向けて合意した戦略対話は、世界の半導体供給網を揺るがす重要鉱物の支配権争奪戦の新たな局面である。中国はアフリカの豊富な鉱物資源、特に世界の生産量の7割を占めるコバルトや集積回路に不可欠なタンタルを狙い、デジタルインフラ投資をてこに権益確保を急いでいる。これは米国の対中半導体規制への非対称的な対抗策であり、重要鉱物の多くを輸入に頼る日本の素材・部品メーカーにとっては、調達リスクの増大と供給網の再考を迫るものだ。

1兆ドル貿易圏の深化、デジタルと鉱物の交換

2026年1月8日にエチオピアの首都アディスアベバで開かれた中国とアフリカ連合の戦略対話は、両者の関係が新たな段階に入ったことを示した。表向きは「世界の平和と安定の促進」が掲げられたが、その実態は経済、とりわけデジタル分野と鉱物資源の連携深化にある。中国税関総署が2024年1月に発表した統計によれば、2023年の中国とアフリカ間の貿易総額は前年比1.5%増の2821億ドルに達し、過去最高を記録した。これは20年前の約20倍の規模であり、中国は2009年以降、15年連続でアフリカにとって最大の貿易相手国であり続けている。この巨大な経済圏を背景に、中国は関係をさらに深化させる狙いだ。中国商務部のデータでは、2022年末時点での対アフリカ直接投資残高は400億ドルを超える。今回の戦略対話は、これまでの「中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」のような多国間での画一的な支援表明から、より対象を絞った戦略的協力へと軸足を移す転換点と見られる。具体的には、通信インフラやデータセンターといった「デジタルシルクロード」の建設支援と引き換えに、半導体や電気自動車(EV)の製造に不可欠な重要鉱物の長期的な供給契約や鉱山権益の確保を狙う「資源外交3.0」とも呼べる戦略が透けて見える。

なぜ中国はアフリカの重要鉱物を狙うのか?

中国がアフリカの鉱物資源に執着するのは、それがハイテク産業、特に半導体製造における米国の技術的優位を相殺しうる数少ない手段だからだ。半導体製造には、シリコンウエハーだけでなく、多種多様な特殊材料が不可欠となる。例えば、コンゴ民主共和国が世界の生産量の約70%(米地質調査所、2023年統計)を占めるコバルトは、リチウムイオン電池の正極材として知られるが、半導体製造装置の精密な電源制御ユニットや、磁性を持つ特殊合金の材料としても用いられる。また、スマートフォンやサーバーの頭脳である集積回路(IC)に内蔵されるコンデンサに必須のタンタルは、その8割近くがコンゴ民主共和国やルワンダなどアフリカ中部に偏在する。中国はこれらの資源を国策として確保し、国内企業による精錬・加工能力も強化してきた。TrendForceの2023年11月の報告書によると、コバルト化合物の精錬市場における中国企業の占有率は75%を超えている。これは、仮にアフリカ以外の国が新たな鉱山を開発しても、最終的な材料化プロセスで中国を経由せざるを得ない供給網の構造を意味する。2023年8月に中国が半導体基板材料であるガリウムとゲルマニウムの輸出規制を発動したことは、こうした上流支配を外交カードとして利用する意思を明確に示した。アフリカ鉱物の確保は、このカードをさらに強力にするための布石である。

デジタルシルクロードと鉱山権益の抱き合わせ

中国のアフリカにおける資源確保戦略は、単なる鉱山買収にとどまらない。通信インフラの整備と鉱山権益を一体で交渉する、巧妙な「抱き合わせ」モデルがその中核をなす。ファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)といった中国企業は、過去10年間でアフリカ大陸の通信インフラの約70%を構築したと英国国際問題研究所(Chatham House)は2022年の報告書で指摘している。これらの企業は、欧米の競合他社に比べて30%から50%低いコストで5G網や光ファイバー網の敷設を提案する。アフリカ諸国の政府にとって、デジタル化は経済発展の喫緊の課題であり、この提案は魅力的だ。中国輸出入銀行からの低利融資とセットでインフラ案件を受注し、その見返りとして、あるいは債務の返済として、未開発の鉱山の探査権や採掘権を獲得する。例えば、ザンビアでは銅やコバルトの鉱山権益が、アンゴラでは石油権益が、インフラプロジェクトと関連付けられてきた。この手法は、資源そのものだけでなく、鉱山の操業に必要な電力や輸送網といった周辺インフラまで一体で開発できるため、プロジェクト全体の実行速度と確実性を高める。結果として、欧米や日本の企業がFS(実行可能性調査)に時間を費やしている間に、中国は実質的な支配権を確立していく構図が定着しつつある。

米欧日の対抗策は機能しているか

中国の動きに対し、日米欧の先進7カ国(G7)も手をこまねいているわけではない。2022年のG7エルマウ・サミットで立ち上げられた「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」は、2027年までに6000億ドルを途上国のインフラ整備に投融資する計画だ。欧州連合(EU)も独自に「グローバル・ゲートウェイ」構想を掲げ、3000億ユーロ(約48兆円)規模の投資を表明している。これらの構想は、透明性の高い融資基準や環境・人権への配慮を掲げ、中国の「債務のわな」外交との差別化をうたう。しかし、実効性には疑問符が付く。アフリカ開発銀行の2023年の報告によれば、アフリカのインフラ整備に年間で必要な資金は約1700億ドルだが、G7全体のコミットメントは5年間の総額であり、単年では中国の投資規模に及ばない可能性がある。また、複数の政府機関や民間企業が連携するPGIIは、中国のような国家主導のトップダウン型に比べて意思決定が遅れがちだ。日本が主導し、2023年にアンゴラのロビト回廊開発に投資を決定した事例は成功例の一つだが、アフリカ全土で中国に対抗するには、より迅速で大規模な資金動員と、具体的なプロジェクト形成能力が問われる。アフリカ諸国から見れば、理念よりも、いかに早く雇用を生み、経済を成長させるかが優先課題であり、現状では中国モデルに軍配が上がる場面が多いのが実情である。

日本企業が直面する選択

アフリカにおける中国の資源囲い込みは、日本の製造業、特に半導体材料や電池材料を手がける企業に深刻な課題を突きつける。日本の半導体産業は、シリコンウエハー(信越化学工業、SUMCOで世界シェア約6割)やフォトレジスト(JSR、東京応化工業などでEUV向けシェア約9割)といった川中・川上の素材分野で圧倒的な競争力を持つ。しかし、その競争力の源泉である高品質な製品を製造するには、コバルト、タンタル、ガリウムといった希少かつ特定の地域に偏在する鉱物資源の安定調達が生命線だ。経済産業省が2023年12月に公表した「鉱物資源の安定供給確保に向けた取組」では、31の重要鉱物を指定し、供給源の多様化やリサイクル技術の開発を推進する方針を打ち出している。企業レベルでは、パナソニックホールディングスがコバルトを使わない「コバルトフリー電池」の開発を急ぐほか、住友金属鉱山は電池材料のリサイクル技術で世界を先行する。だが、代替材料の開発やリサイクル網の構築には10年単位の時間と巨額の投資が必要だ。短中期的な対策としては、政府と企業が一体となり、オーストラリアやカナダ、南米諸国といった中国の影響が比較的小さい資源国との連携を深める「フレンド・ショアリング」を加速させるほかない。アフリカにおいても、中国の寡占状態を座視するのではなく、日本独自の技術協力や人材育成を組み合わせた細やかなアプローチで、ザンビアやナミビアといった民主主義的価値観を共有する国々との関係を再構築する地道な努力が求められる。