動画アプリTikTokを運営するByteDance傘下のAIチャットボット「豆包(Doubao)」が、早ければ5月中下旬にも有料プランを導入する見通しだ。月間3.4億人と中国最大の利用者数を抱えるが、利用者増が巨額の計算コストを招き経営を圧迫。生成AIの事業化の難しさを象徴する動きとなっている。

月額最大1万円超の有料プランを試験導入

中国メディア「第一財経」が5月3日に報じたところによると、「豆包」は現在、複数の有料プランを試験導入している。App Storeでは、月額68元(約1400円)の標準プランから、最高で月額500元(約1万円)のプロプランまで3段階の料金体系が確認された。運営元のByteDanceは無料サービスを継続する一方、プレゼン資料の自動生成やデータ分析といった高度な機能を有料で提供することを検討していると認めた。これらの機能は多くの計算能力を要するため、課金によってコストを回収し、サービスの質を維持する狙いがあるとみられる。

「利用者増=赤字増」という生成AIのジレンマ

従来のインターネットサービスでは、月間アクティブユーザー(MAU)の増加が広告収入に繋がり、規模の経済が機能した。しかし生成AIは、利用されるたびに計算コストが直線的に増加する「重資産・高コスト」型の事業だ。利用者が増えるほど赤字が膨らむ構造的な課題を抱えている。調査会社QuestMobileによると、2024年第1四半期の中国AIアプリ市場で、「豆包」のMAUは3.4億人に達し、2位(1.27億人)以下を大きく引き離している。これは後続9社の合計利用者数を上回る規模であり、コスト負担も突出していることを示唆する。

OpenAIに匹敵するトークン消費量

AI事業のコストを測る指標は利用者数ではなく、AIモデルが処理するデータ量を示す「トークン消費量」だ。これはAI時代のインフラコストに例えられる。「豆包」の1日あたりの平均トークン消費量は、過去2年間で1000倍に急増し、2024年5月には120兆に達した。この「1日100兆超」という消費量は、世界でもOpenAIやグーグルなど一部の巨大IT企業しか到達していない水準である。ByteDanceは、米国の巨大IT企業に匹敵するインフラコストの圧力を単独で背負っていることになる。

半導体規制がコスト圧力を増幅

この莫大なコスト圧力に加え、ByteDanceは米国の対中半導体輸出規制という逆風にも直面している。OpenAIなどが資金さえあればNVIDIA製の高性能GPUを調達できるのに対し、ByteDanceは比較的性能の劣る国産の推論用半導体に頼らざるを得ない状況だ。限られた性能のハードウェアで巨大な計算需要を賄うため、設備投資(Capex)は急増。2025年にはAlibabaテンセントを大幅に上回る規模に達する見通しだ。この厳しいコスト構造が、直接課金という収益モデルへの転換を迫った最大の要因とみられる。豆包の収益化の成否は、中国AI業界全体の今後を占う試金石となりそうだ。

日本市場への影響

ByteDance傘下の「豆包」有料化は、日本企業にとってAI活用戦略の見直しを迫る。月間3.4億人という膨大な利用者数を抱える「豆包」が、利用増による計算コスト増で有料化に踏み切った事実は、AIの「重資産・高コスト」構造を明確に示した。これは、日本企業が安易な生成AI導入に走るリスクを浮き彫りにする。

特に、製造業や金融業など、機密性の高いデータを扱う企業は、自社データを用いた生成AI活用を検討する際、サービス利用料だけでなく、トークン消費量に応じた隠れたコストを精査する必要がある。また、米国の対中半導体輸出規制がByteDanceのCapexを急増させたように、地政学リスクによるサプライチェーンの不安定化は、AIインフラコストに直結する。日本企業が海外のAIサービスを利用する際は、提供元の技術基盤や半導体調達能力、さらには規制リスクまで考慮した上で、長期的なコストシミュレーションを行うべきだ。

一方で、今回の動きは、特定の高度なAI機能に特化し、有料で提供するビジネスモデルの可能性を示唆する。例えば、日本の中小企業向けに特化したニッチなデータ分析ツールや、プレゼン資料自動生成サービスなど、特定の業務効率化に資するAIソリューションは、高額なプロプランであっても需要が見込める可能性がある。日本企業は、汎用的なAIサービスに依存するだけでなく、自社の強みを活かした専門性の高いAIソリューション開発に注力することで、新たな収益源を確立できる機会がある。