春節(旧正月)期間中、中国のAI市場で顧客獲得競争が激化している。バイドゥテンセントなどの大手IT企業が、自社のAIアプリケーションで「紅包」(電子お年玉)を配布する大規模なキャンペーンを展開し、ユーザー数の拡大を競っている。

AIアプリで「紅包」争奪戦

春節は、インターネット大手企業がユーザーとトラフィックを奪い合う絶好の機会となる。検索大手バイドゥはAIチャットボット「文心一言ERNIE Bot)」を組み込んだアプリで、SNS大手テンセントはAIアシスタントアプリ「元宝」でそれぞれ紅包キャンペーンを実施し、新規ユーザーの獲得と利用促進を図っている。

これらのキャンペーンは、アプリ内で特定のタスクを完了すると紅包がもらえる仕組みで、ユーザーに新たな利用体験を提供しながら、サービスの利用を促す狙いだ。

激化する消費者向けAI市場

業界関係者は、春節の紅包キャンペーンが消費者向けAIアプリのダウンロード数とデイリーアクティブユーザー数(DAU)を大幅に押し上げる効果があるとみている。中国電子商取引専門家サービスセンターの郭涛・副主任は、「春節は国民が一堂に会する時期で交流が活発化し、ユーザーの利用時間も長くなる。巨額の紅包は、AIアプリのダウンロードと初期利用を促進する」と指摘する。

QuestMobileの報告書によると、AIネイティブアプリの週間アクティブユーザー数(WAU)では、ByteDanceの「豆包(Doubao)」が首位に立ち、DeepSeek社の「DeepSeek」、テンセントの「元宝」、アントグループの「Ant Afu」、Alibabaの「Qwen通義千問)(Tongyi Qianwen)」が続く。市場競争はすでに熾烈だ。

ユーザー定着が成長の鍵

郭氏は、キャンペーンで獲得したユーザーをいかに定着させるかが重要だと分析する。同氏はユーザー定着の鍵として、①ユーザーの真のニーズを捉え、技術や利用シーンで差別化できるか、②利用データをもとにモデルを継続的に改善し、体験価値を向上させられるか、③既存のSNSやオフィスツールなどのエコシステムに自然に組み込み、利用のハードルを下げられるか、の3点を挙げる。

開源証券の調査報告によると、国内の大規模モデル開発企業は、モデルの頻繁なアップデート、コストパフォーマンスの追求、海外展開を通じてユーザーと収益の拡大を目指している。同報告は、春節キャンペーンがもたらす強力な口コミ効果を利用し、各社が消費者向けAI市場への入り口を巡る争奪戦を繰り広げていると伝えた。

日本への影響

中国AI市場の春節商戦は、日本企業にとって単なる対岸の火事ではない。特に、ByteDanceの「豆包(Doubao)」が週間アクティブユーザー数(WAU)で首位に立つなど、消費者向けAIアプリの競争が激化している点は、日本のデジタルコンテンツやサービス事業者にとって直接的な脅威となり得る。中国市場でAIを活用したユーザー獲得競争が激化すれば、日本企業が中国市場で展開するアプリやサービスも、AI機能の有無や利便性で劣後し、ユーザー離れを招く可能性がある。

また、開源証券が指摘するように、中国の大規模モデル開発企業が「海外展開を通じてユーザーと収益の拡大を目指している」ことは、日本市場への進出を加速させる可能性を示唆している。例えば、Alibabaの「Qwen通義千問)」のような汎用性の高いAIモデルが日本語対応を強化し、日本企業が提供するサービスに安価で組み込めるようになれば、日本のAI開発企業は価格競争に巻き込まれるリスクがある。

さらに、郭涛氏が挙げる「ユーザーの真のニーズを捉え、技術や利用シーンで差別化できるか」という点は、日本企業が中国市場で生き残るための重要な示唆を与える。単にAIを導入するだけでなく、中国の文化や商習慣に合わせたきめ細やかなAIサービスを提供できるかが、競争優位性を確立する鍵となるだろう。例えば、日本のコンテンツ産業が持つIP(知的財産)と中国のAI技術を組み合わせるなど、新たな協業モデルを模索する機会も生まれる。