生成AI(人工知能)ブームを背景に、中国の電力・新エネルギーセクターが劇的な復活を遂げている。かつて過剰投資で評価額が暴落した同分野は、AIインフラの根幹を支える存在として再評価され、投資資金が流入。中国政府が打ち出した新戦略「算電協同」、すなわちコンピューティング能力と電力供給網の協調発展がこの転換を主導している。この動きは、AIが消費する莫大な電力をいかに安定的に供給するかという国家課題への回答であり、日本の産業界にも新たな事業機会と競争リスクをもたらす可能性がある。

官製AIブームが電力株を押し上げる

中国株式市場では、電力関連銘柄が活況を呈している。大手電力会社である中国大唐集団公司の発電事業を担う大唐国際発電の株価は直近1カ月で77%急騰するなど、他の電力株も軒並み上昇した。市場関係者はこれを、単なる景気循環に伴う物色買いではなく、「AI時代におけるエネルギー資産の価値再評価」の始まりと見ている。「コンピューティング能力は電力であり、グリーン電力は資産である」という新たな投資テーマが形成され、資金流入が加速している。

この潮流を決定づけたのが政府の動きだ。2024年4月、国家発展改革委員会 (NDRC) や国家能源局 (NEA) など4つの主要官庁は共同で「AIとエネルギーの双方向エンパワーメントに関する行動計画」を発表した。この政策の核心が「算電協同」であり、コンピューティング能力の増強と電力供給網の高度化を一体で推進する国家戦略だ。政府は2027年までに、AIの発展を支える安全かつグリーンで経済的なエネルギー保障体系を構築する目標を掲げている。具体策として、新規の大規模データセンターにはグリーン電力の供給と蓄電設備の併設が義務付けられ、基準未達の場合はプロジェクト認可や送電網への接続が許可されない。

新エネルギー投資、冬の時代からの転換

わずか2年前、中国の新エネルギーセクターは厳しい冬の時代にあった。2022年後半から、リチウム電池材料や太陽光パネル関連企業の株価はピーク時の3分の1から5分の1にまで下落し、80%以上暴落する銘柄も散見された。過剰な期待と投資が剥落し、多くの投資家は半導体やAI分野へと資金を移した。しかし、生成AIの台頭がこの状況を一変させた。大規模言語モデル (LLM) の学習や推論は、従来のITサービスとは比較にならないほどの電力を消費する。この巨大な電力需要が、供給過剰に陥っていたグリーン電力や蓄電システムにとって、新たな受け皿となった。

AIの電力消費は、もはや無視できない規模に達している。国際エネルギー機関 (IEA) が2024年1月に発表した報告書によると、世界のデータセンター、AI、暗号資産を合わせた電力消費量は、2022年の460TWh (テラワット時) から2026年には最大1,050TWhへと倍増以上になる見込みで、これは日本の年間総電力消費量に匹敵する。中国国内でも、中国情報通信研究院 (CAICT) の推計によれば、データセンターの電力消費量は2022年に2,700億kWhを超え、社会全体の電力消費量の3%を占める。この爆発的な需要増が、政府によるグリーン電力への強力なシフト政策を後押ししている構造だ。

国家戦略としての「算電協同」、その狙い

「算電協同」戦略は、単なるエネルギー政策にとどまらない。AIという次世代技術の覇権を握るため、その基盤となる電力インフラを国家主導で再定義する狙いがある。この戦略は、中国が長年進めてきた「西電東送」(西部地域の豊富なエネルギー資源で発電し、東部の電力需要地へ送電するプロジェクト) の現代版とも解釈できる。AIの計算需要の一部を、再生可能エネルギー資源が豊富で電力供給に余力のある西部地域に戦略的に誘導し、データセンターを電力供給源の近くに配置することで、送電ロスを削減し電力網全体の効率を最大化する意図が見て取れる。

さらに、この動きは国際的な技術標準化競争の側面も持つ。中国は「AI×エネルギー」という新たな領域で技術標準を確立し、それを国際標準として普及させることで、地政学的な影響力の拡大を狙っているとみられる。今後の課題は、天候に左右される再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、24時間365日稼働するデータセンターへ途切れることなく電力を供給する電力網全体の安定性 (グリッド・レジリエンス) の確保にある。この課題解決の過程で生まれる技術や運用ノウハウが、新たな国際標準の土台となる可能性がある。

日本の関連性

中国の「算電協同」戦略は、日本企業に新たな事業機会と同時に、競争激化のリスクをもたらす。まず、AIの電力需要増は、日本の電力インフラ関連企業にとって中国市場でのビジネスチャンスを創出する。特に、新規の大規模データセンターに義務付けられるグリーン電力供給や蓄電設備の併設は、日本の高効率な蓄電池技術や再生可能エネルギー関連技術を持つ企業にとって、中国市場への参入や既存ビジネスの拡大を促す可能性がある。例えば、村田製作所やTDKといった電子部品メーカーは、データセンター向け電源や蓄電システムにおいて、技術的な優位性を活かせるかもしれない。

しかし、この戦略は日本企業に新たな競争圧力も与える。中国政府が2027年までに「安全かつグリーンで経済的なエネルギー保障体系」を構築する目標を掲げ、グリーン電力への強力なシフトを推進しているため、中国国内の関連企業が急速に技術力と価格競争力を高める可能性がある。これにより、日本の再生可能エネルギーや蓄電技術企業が、コスト面で不利になる恐れがある。

さらに、中国大唐集団公司の子会社である大唐国際発電の株価が直近1カ月で77%急騰したように、中国の電力関連企業は政府の強力な後押しを受けて急速に成長している。これは、日本の電力会社やエネルギー関連企業が、将来的に中国市場で競争する際に、規模と政策支援の面で不利な立場に置かれる可能性を示唆している。日本企業は、この「算電協同」戦略の進展を注視し、自社の技術優位性を維持・強化するための戦略を再構築する必要がある。

ファーウェイ昇騰910Cが問う、中国「算力自給」の現実路線

「算電協同」戦略が描く壮大な構想は、その根幹で一つの厳しい現実に直面している。計算能力、すなわち「算力」の源泉となる先端半導体の供給問題だ。米商務省産業安全保障局(BIS)が2023年10月に発動した輸出規制強化により、NVIDIA製のH100やA100といった高性能GPUの中国向け供給は事実上断たれた。この「半導体有事」とも言える状況が、中国独自のAIアクセラレータ開発を国家的な最優先課題へと押し上げた構図が浮かぶ。もはや選択の問題ではなく、AI覇権の存亡をかけた必須の取り組みとして、国産チップへの全面移行が急ピッチで進められている。

この国家的な要請に応える形で、中国の算力自給の期待を一身に背負うのが、通信機器大手ファーウェイ(華為技術)が開発するAIプロセッサ「昇騰(Ascend)910C」である。同チップは、中国最大のファウンドリである中芯国際集成電路製造SMIC)が7nmプロセスに相当するとされる「N+2」技術で製造。その理論性能は、単精度浮動小数点(FP32)で640 TFLOPSに達し、NVIDIAが規制前に輸出していたA800に匹敵するとされる。しかし、AIの性能はチップ単体の計算能力だけでは決まらない。チップ間を高速に接続するインターコネクト技術や、複数のチップを一つの基板上に高密度に実装するCoWoSのような高度なパッケージング技術、そして開発者を惹きつけるソフトウェア・エコシステム(CUDAの牙城)の構築が不可欠であり、ファーウェイはこれら全ての領域で垂直統合の布陣を敷く。中国国内のAI企業は、性能や安定供給への懸念を抱えつつも、昇騰プラットフォームへの移行を迫られているのが実情だ。

「算電協同」戦略は、この国産チップの潜在的な弱点を巧みに補う側面を持つ。一般に、最先端プロセスで製造されたチップに比べ、数世代前の技術で作られたチップは電力効率(性能/ワット)で劣る傾向にある。このハンディキャップを、西部地域の安価で豊富なグリーン電力で相殺するのが中国の国家戦略だ。内モンゴル自治区や甘粛省といった地域では、太陽光や風力による発電コストが東部沿岸部の3分の1から2分の1と極めて低い。電力コストがAIデータセンターの総所有コスト(TCO)の主要部分を占めることを考えれば、電力効率の劣る国産NPUを使ったとしても、全体として経済合理性を成立させられるという計算が働く。データセンターへの併設が義務化された蓄電設備には、CATLBYDが世界市場を席巻するLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池が採用される見込みで、エネルギー分野でも地産地消モデルが完成しつつある。

結局のところ、中国のAI戦略は、単一の最高性能コンポーネントを追求するのではなく、入手可能な国産技術をシステムとして最適化することで米国の規制を乗り越えようとする「システム工学的アプローチ」であると分析される。これは、異なる機能を持つ半導体を組み合わせるchiplet技術のように、個々の要素の弱点を全体の設計で補う思想に通じる。西部の「訓練」拠点と東部の「推論」拠点を結ぶこの壮大な国家プロジェクトは、半導体、電力、データインフラを一体で捉える新たな競争パラダイムを提示している。西側諸国が主導する半導体規制だけでは、この巨大なシステム全体の進化を食い止めることは困難であるという現実が、浮き彫りになっている。

技術的深掘り

技術的深掘り

「算電協同」戦略が目指すAI国家インフラの成否は、その根幹をなすハードウェア、とりわけAIアクセラレータの性能と電力効率に懸かっている。米国の技術規制下で、中国がいかにしてこの技術的課題を乗り越えようとしているのか。そのアプローチは、単一の高性能チップを追求するのではなく、システム全体で弱点を補う「システム工学」的な思想に貫かれている。

第一のボトルネックは、AIプロセッサの性能を規定するメモリ帯域幅だ。現代のAI、特にTransformerアーキテクチャを基盤とする大規模言語モデル(LLM)は、膨大なパラメータを処理するため、計算能力(TFLOPS)以上に、プロセッサにデータを高速供給するメモリ性能が律速段階となる。NVIDIAのH100が3.35 TB/sという驚異的な帯域幅を実現しているのは、高帯域幅メモリ(HBM)を複数スタック搭載しているからに他ならない。ファーウェイの昇騰910Cは、SMIC7nm相当プロセスで製造され、理論性能では規制前のNVIDIA製品に匹敵するが、その性能を最大限に引き出すには、同等クラスのHBMの安定調達と、それをチップと高密度に接続する高度なパッケージング技術が不可欠だ。韓国勢が市場を支配するHBMの国産化は中国にとって最優先課題だが、歩留まりと性能の両立は依然として高いハードルである。

第二に、チップ実装を司るパッケージング技術の格差が挙げられる。複数のAIプロセッサダイとHBMスタックを、一枚のインターポーザ(中継基板)上に高密度に実装するTSMCのCoWoS技術は、チップ間の通信遅延を劇的に削減し、大規模なAIクラスタの性能を保証する鍵だ。中国のファウンドリやOSAT(後工程専門企業)は、このCoWoSに代わる2.5D/3Dパッケージング技術の開発を急ぐが、TSMCが長年培ってきた量産ノウハウと生産能力に追いつくには時間を要する。このギャップは、特に数千から数万基のNPUを連携させる超大規模な「訓練(Training)」クラスタを構築する際に、システム全体のスケーラビリティと効率を損なう要因となり得る。

こうした個々のコンポーネントにおける技術的劣勢を、中国はシステムレベルの最適化で補う。これが「算電協同」の技術的な核心だ。SMICのプロセスは、最先端のEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置なしにDUV(深紫外線)の多重露光で製造されるため、TSMCの同世代プロセスと比較して電力効率(性能/ワット)で劣ることは避けられない。このハンディキャップを、安価で豊富なグリーン電力で直接的に相殺する。西部地域のデータセンターでは、電力コストがAIインフラの総所有コスト(TCO)の大半を占めるため、チップの電力効率の低さをエネルギーコストの低さで吸収する計算が成り立つ。

さらに、データセンターのアーキテクチャそのものにも工夫が見られる。サーバー間の通信には、従来の銅線ベースのPCIeなどに代わり、低消費電力で広帯域な光通信技術「シリコンフォトニクス」の導入が進む。ファーウェイが通信機器事業で培ったこの技術は、データセンター全体のエネルギー効率を向上させる上で決定的な役割を果たす。そして、データセンターに併設が義務付けられる数GWh規模の蓄電システムが、この戦略の最後のピースを埋める。世界市場を席巻するCATL製のLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池が、太陽光や風力発電の出力変動を平準化し、AIの訓練に必要な安定した大電力を24時間供給するバッファとして機能する。

結論として、中国のAIハードウェア戦略は、半導体、パッケージング、メモリといった個々の要素の弱点を、システムアーキテクチャ、光通信技術、そしてエネルギーインフラとの垂直統合によって克服しようとする非対称戦略である。これは、異なる機能を持つ半導体を組み合わせるchipletアーキテクチャの思想を国家レベルに拡張したものと解釈できる。このシステム工学的アプローチの巧みさこそ、米国の半導体規制だけでは捉えきれない中国AI戦略の真の恐ろしさを示唆している。