中国の造船技術が、自動車輸送で新たな節目を迎えた。中国船舶集団 (CSSC) 傘下の広船国際は4月28日、広東省広州市で、世界初となる積載能力1万台超のデュアル燃料自動車運搬船 (PCTC) を引き渡したと発表した。中国の自動車輸出急増に対応する動きで、世界の海運市場における同国の存在感が一層高まる。

世界最大、1万台超の輸送能力

引き渡された新造船は、全長230メートル、幅40メートルで、14層の車両甲板を備える。最大1万800台の標準的な乗用車を積載可能で、これは一直線に並べると50キロメートル以上にかなりする規模だ。

この運搬船は、ガソリン車だけでなく、重量のある電気自動車 (EV) や水素燃料電池車、大型トラックなど多様な車種に対応する設計となっている。燃料には液化天然ガス (LNG) も使用できるデュアル燃料推進システムを搭載し、国際的な環境規制に対応しつつ運航コストの最適化を図っている。広船国際によると、同社はこの規模の船舶建造技術を完全にに確立したという。

背景に自動車輸出の急増と船腹不足

超大型船開発の背景には、中国製自動車の輸出急増がある。中国汽車工業協会の発表によると、2023年の自動車輸出台数は前年比57.9%増の491万台に達した。特に新エネルギー車 (NEV) の輸出が急成長しており、世界的に自動車運搬船の「船腹不足」が深刻化している。

この旺盛な需要を受け、広船国際の造船所はフル稼働状態が続く。同社が抱えるPCTCの新造船受注は累計で40隻を超え、建造ドックは2030年まで予約で埋まっている状況だ。今回発表された1万台積みモデルの登場により、世界の海運大手や自動車メーカーからの引き合いが一段と強まっている。

市場独占と垂直統合の動き

現在、世界のPCTCの新造船発注の約8割が中国の造船所に集中している。かつて同分野で強みを持っていた日韓の造船所に対し、中国は標準化による大量生産と価格競争力で攻勢をかけている。

同時に、BYDなどの中国自動車メーカーが自ら運搬船を発注・保有し、海運を内製化する「垂直統合」の動きも進む。1万台積みの超大型船は、1隻あたりの輸送コストを極限まで引き下げる戦略の一環であり、中国企業の市場支配力をさらに強固にするものだ。

日本への影響

中国が世界初の1万台積みPCTCを竣工させたことは、日本の自動車産業と海運業に直接的な影響を及ぼす。まず、日本の自動車メーカーは、中国の自動車輸出急増によるPCTCの船腹不足に直面する可能性が高まる。特に、BYDのような中国自動車メーカーが自社で運搬船を保有し、海運を内製化する「垂直統合」を進めているため、日本のメーカーが従来利用してきた外部の海運リソースが圧迫され、輸送コストの上昇や納期遅延のリスクが増大する。

次に、日本の造船業界は、PCTC市場における中国の圧倒的な優位性に直面する。広船国際が「1万800台」積載可能な超大型船の建造技術を確立し、2030年まで受注が埋まっている現状は、かつてPCTC分野で強みを持っていた日本の造船所が、技術力と価格競争力の両面で中国に後れを取っていることを示唆する。このままでは、日本の造船所がPCTC市場での存在感をさらに失い、高付加価値船種へのシフトを加速させる必要に迫られるだろう。

最後に、中国が国際的な環境規制に対応したLNGデュアル燃料推進システムを搭載したPCTCを建造していることは、日本の海運会社にとって、環境対応船への投資判断を加速させる要因となる。中国が環境規制とコスト最適化を両立させる技術を確立し、市場を席巻しようとしている中で、日本の海運会社は、既存船隊の更新や新たな環境技術への投資を怠れば、国際競争力を失うリスクに直面する。