米国による中国への半導体制裁と、それに対する中国の対抗措置がエスカレートしている。先端技術の覇権を巡る米中対立は、世界の半導体サプライチェーンの分断を加速させ、日本を含む各国の産業戦略に大きな影響を及ぼしている。中国は巨額の国家投資を背景に半導体の国産化を強力に推進し、米国の技術的封じ込めに対抗する姿勢を鮮明にしている。
なぜ今、重要か
米中間の技術覇権争いは、2022年10月に米商務省産業安全保障局(BIS)が発表した包括的な輸出管理規則の強化により、新たな局面に入った。この規制は、中国による先端半導体の開発・生産能力を直接的に制限するもので、世界の半導体サプライチェーンの再編を決定づける動きとなった。ブルームバーグによると、中国はこれに対抗し、2024年には過去最大規模となる3440億元(約7兆円)の第3期「国家集積回路産業投資基金」を設立。技術的自立に向けた国家の強い意志を示している。この対立の激化は、半導体市場の不確実性を高め、関連企業の株価や投資戦略に直接的な影響を与えている。
米国、先端技術の輸出管理を厳格化
米商務省は、安全保障上の懸念を理由に、中国の半導体産業に対する輸出管理措置を段階的に強化している。特に、AI(人工知能)やスーパーコンピューター開発に不可欠な先端半導体や製造装置、EDA(電子設計自動化)ツールなどが主な対象だ。これにより、中国の通信機器最大手ファーウェイや半導体受託製造(ファウンドリ)最大手のSMICなどがエンティティ・リストに追加され、米国の技術を用いた製品の調達に大きな制約を受けている。ロイター通信が報じた通り、米国は同盟国である日本やオランダにも協力を要請。日本の東京エレクトロンやオランダのASMLといった主にな製造装置メーカーに対し、先端装置の対中輸出を制限するよう求めている。
中国、巨額投資で「半導体自給」を推進
一方、中国政府は米国の制裁に強く反発し、国内の半導体産業育成を国家戦略の最重要課題と位置付けている。前述の「国家集積回路産業投資基金」などを通じて巨額の資金を投じ、国内企業の技術開発や生産能力の増強を強力に後押しする構えだ。この結果、ファーウェイが2023年に発売したスマートフォン「Mate 60 Pro」には、SMICが製造した7nmプロセスのチップが搭載されていることが判明し、米国の規制下でも中国が技術を進展させている実態が明らかになった。また、半導体の原材料となるガリウムやゲルマニウムといった重要鉱物資源の輸出規制を発動するなど、サプライチェーンにおける自国の影響力を武器に対抗措置を講じている。
技術解説
中国の半導体国産化、特にSMICによる7nmプロセスの実現は、その技術的側面に注目が集まっている。この成果は、業界標準であるASML製のEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置を使用せず、旧世代のDUV(深紫外線)装置を駆使した多重露光技術によって達成されたとみられている。
- プロセスノードとリソグラフィ: DUVの多重露光は、同じ回路パターンを複数回重ねて焼き付けることで、より微細な回路を形成する技術だ。しかし、この手法は工程が複雑化し、製造コストが大幅に増加する。また、中国の国産装置メーカーSMEE(上海微電子装備)はDUV装置の開発を進めているが、その性能は依然として28nmプロセスにとどまっており、先端プロセスへの道のりは遠い。
- 歩留まり (Yield): DUV多重露光の最大の課題は歩留まりの低さだ。業界アナリストの分析では、SMICの7nmプロセスの歩留まりは30~50%程度と推定されている。これは、TSMCなど競合ファウンドリの同世代プロセスの歩留まりが90%以上に達するのと比較して著しく低い。低い歩留まりはチップ単価の上昇に直結し、商業ベースでの大規模生産には大きな障壁となる。
- fab capacity (生産能力): SMICは政府の支援を受け、成熟プロセス(28nm以上)を中心に生産能力を急拡大させている。2025年までに月間ウェハー生産能力を大幅に引き上げる計画で、これにより世界市場で成熟半導体の供給過剰と価格競争が激化する可能性が指摘されている。
まとめ:日本への示唆
米国の対中半導体制裁強化と中国の国産化推進は、日本の半導体産業に多面的な影響を及ぼす。まず、米国が日本やオランダに協力を求める中で、日本の半導体製造装置メーカーは、輸出規制の対象拡大により中国市場での売上が減少するリスクがある。特に、中国のファーウェイやSMICといった主要顧客への販売が制限されれば、業績に直接的な打撃を与える可能性が高い。
次に、中国が数兆円規模の資金を投じて半導体自給を目指す動きは、日本の素材・部品メーカーにとって新たなビジネスチャンスを生み出す可能性がある。中国国内での半導体生産能力増強に伴い、高品質な日本の半導体材料や精密部品への需要が高まることが予想される。ただし、中国企業が技術力を高め、将来的に日本のサプライヤーを代替する可能性も考慮する必要がある。
最後に、中国がガリウムやゲルマニウムの輸出規制を発動したように、重要鉱物資源を外交カードとして利用する動きは、日本のサプライチェーンの脆弱性を露呈させる。日本企業は、これらの資源の調達先を多角化し、代替技術の開発を加速させることで、地政学的リスクへの耐性を高める必要がある。これは単なるコスト問題ではなく、国家安全保障に関わる喫緊の課題だ。
出典・参考
- [Bloomberg] (2024-05-24) "China Sets Up $47.5 Billion Chip Fund to Counter US Curbs" ― https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-05-24/china-sets-up-new-47-5-billion-chip-fund-to-counter-us-curbs
- [Reuters] (2023-03-31) "Netherlands, Japan join US in restricting chip equipment exports to China" ― https://www.reuters.com/technology/netherlands-publish-new-chip-export-controls-before-summer-2023-03-08/
- [TrendForce] (2023-09-06) "Breaking Down Huawei’s Mate 60 Pro: What’s the big deal with its 7nm chip?" ― https://www.trendforce.com/insights/20230906-11831.html