中国が2026年から始まる第15次5カ年計画で、半導体の国内自給率向上を最重要課題に据える方針が鮮明になった。特に28ナノメートル(nm)以上の成熟工程で、製造装置から材料に至る供給網の完全な国内循環を目指す。2023年の半導体製造装置輸入額が過去最高の約400億ドルに達した裏で、長江存儲科技(YMTC)や中芯国際集成電路製造SMIC)は政府主導の巨額投資を受け生産能力を急拡張している。この動きは、東京エレクトロンなど日本の装置メーカーには短期的な追い風となるが、長期的には日本の基盤技術が蓄積された素材・部品産業との直接的な競合を招き、地政学的な緊張を高める可能性がある。日本企業は、目先の商機と構造変化のリスクを天秤にかける難しい判断を迫られる。

400億ドル輸入の裏にある国産化の焦り

2023年、中国の半導体製造装置輸入額が約400億ドルに達し、前年比14%増と過去最高を記録した。業界団体SEMIが2024年4月に発表した統計で明らかになったこの数字は、一見すると中国の海外依存の高まりを示す。しかし、その内実は米国の輸出規制強化を見越した「駆け込み需要」であり、水面下で進む国産化への焦燥感の裏返しと見るべきだ。特に輸入が急増したのは、オランダASML製のDUV(深紫外線)露光装置である。ASMLの2023年第4四半期決算によれば、中国向け売上高が全体の39%を占め、前年同期の14%から急拡大した。これは、2024年からの同社に対する輸出許可制強化を前に、中国の半導体メーカーが旧世代の液浸ArF(フッ化アルゴン)露光装置「NXT:2050i」などを可能な限り確保しようと動いた結果と見られる。一方で、この駆け込み投資と並行して、国内での装置開発が国家主導で加速している。その象徴が、上海微電子装備(SMEE)が開発を進める国産DUV露光装置だ。同社は28nmプロセスに対応可能なArF液浸スキャナー「SSA/800-10W」の開発を進めているとされるが、その性能や安定供給能力は依然として不透明だ。装置1台あたりのウエハー処理能力(WPH)や稼働率といった量産指標でASML製に大きく劣後すると見られ、国産化の道のりは平坦ではない。

なぜ「成熟工程」が主戦場なのか?

米国の輸出規制は、14nm以下の先端論理半導体や128層以上の3D NANDメモリーなど、最先端分野に焦点を合わせている。これにより、SMICが限定的に製造した7nm半導体のような事例はあっても、それを大規模に量産する道は事実上閉ざされた。ではなぜ中国は巨額の投資を続けるのか。その答えは、世界の半導体需要の根幹をなす「成熟工程」にある。調査会社IC Insightsの2023年版報告書によれば、28nm以上の成熟・旧世代プロセスで製造される半導体は、依然として全半導体市場の約6割を占める。これらは自動車の電動化を支えるパワー半導体や、工場の自動化に不可欠な各種センサー、そしてあらゆる家電製品の頭脳となるマイクロコントローラー(MCU)などに幅広く使用されており、経済活動の基盤そのものだ。中国の戦略は、この巨大な市場で供給網を完全に掌握し、国内需要を満たすだけでなく、将来的には世界への供給拠点としての地位を確立することにある。台湾の調査会社TrendForceは、2027年までに中国の成熟工程(28nm以上)におけるウエハー生産能力の世界シェアが、2023年の31%から39%まで上昇すると予測する。この計画を牽引するのが、YMTCや華虹半導体(Hua Hong Semiconductor)といった国策企業であり、それぞれが数十億ドル規模の工場新設計画を進めている。先端技術で米国と競うのではなく、経済の土台となる領域で確固たる足場を築く。それが中国の現実的な選択である。

日本が握る「見えざる支配圏」への挑戦

中国の半導体国産化戦略が直面する最大の障壁は、製造装置の先にある素材・部品分野だ。この領域は、日本の化学・素材メーカーが長年の研究開発で築き上げた「見えざる支配圏」とも言える。例えば、回路パターンをウエハーに転写するリソグラフィー工程で不可欠なフォトレジスト(感光材)は、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの日本企業4社でEUV(極端紫外線)向けの世界シェア約9割を握る。半導体の基板となるシリコンウエハーも、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの約6割を占める。さらに、ウエハー洗浄に用いる超高純度フッ化水素ではステラケミファや森田化学工業、ウエハー平坦化に使うCMPスラリーでは富士フイルムなどが高い競争力を持つ。これらの素材は、単に化学式が同じであれば代替できるものではない。不純物をppb(10億分の1)レベル以下で管理する精製技術や、ロット間の品質のばらつきを極限まで抑える生産管理能力が、最終的な半導体の歩留まり、すなわち良品率を直接左右する。中国国内でも南大光電や江化微電子材料といった企業がフォトレジストや特殊ガスの国産化を試みているが、日本製品が達成している品質の安定性には到達していないのが実情だ。中国が真の半導体自給を達成するには、この日本の牙城を突き崩す必要がある。

装置国産化の現実解、蝕刻と成膜から

リソグラフィー装置という最も高い壁を前に、中国はより現実的な領域から国産化の突破口を開こうとしている。それが、回路パターンを精密に削り出す蝕刻(エッチング)と、絶縁膜や金属膜を形成する成膜(デポジション)の工程だ。これらの分野では、中微半導体設備(AMEC)や北方華創科技集団(NAURA)といった国内装置メーカーが急速に技術力を高めている。AMECが開発した誘導結合プラズマ(ICP)方式の蝕刻装置は、すでにSMICYMTCの量産ラインで広く採用されており、一部は台湾TSMCの旧世代ラインにも納入された実績を持つ。その性能は、米ラムリサーチや東京エレクトロンの最新鋭機には及ばないものの、成熟工程で使う分には十分な水準に達しつつある。一方、NAURAはPVD(物理気相成長)やCVD(化学気相成長)といった成膜装置で国内シェアを拡大。同社の売上高は2023年に前年比50%超の成長を遂げ、中国国内の半導体メーカーとの緊密な連携をテコに、装置の改良サイクルを早めている。リソグラフィー、蝕刻、成膜という一連の工程は、半導体製造において十数回も繰り返される中核部分だ。中国は、まず蝕刻と成膜装置の国内供給比率を高め、製造ラインの中に国産装置を「埋め込む」ことで実績を蓄積。そのデータを基に、より困難なリソグラフィー装置の開発につなげる戦略を描いていると見られる。

日本企業が直面する選択

中国の半導体国産化に向けた巨大投資は、日本の関連産業に二律背反の課題を突きつける。短期的には、活発な設備投資は日本の製造装置や素材メーカーにとって大きな商機となる。東京エレクトロンの2024年3月期決算では、売上高に占める中国向け比率が47%に達し、過去最高を更新した。中国が成熟工程の生産能力を増強する限り、高品質な日本の装置や材料への需要は当面続くだろう。しかし、中長期的には、この構図は根本から覆る危険性をはらむ。中国が目指すのは、単なる生産拠点化ではなく、技術と供給網の完全な内製化である。今日の発注主が、明日の競合相手になり得るのだ。特に、日本が強みを持つフォトレジストや特殊化学品、高純度シリコンウエハーといった基盤技術分野は、中国の国家戦略における「最後の攻略対象」と位置づけられている。政府の補助金を受けた中国企業が低価格攻勢を仕掛け、日本のシェアを切り崩しにかかるシナリオは十分に想定される。日本企業は、中国市場での商機を追求しつつも、技術流出のリスク管理を徹底し、研究開発投資を緩めてはならない。同時に、中国依存のリスクを分散させるため、インドや東南アジア、米国などでの新たな供給網構築を加速させる「チャイナ・プラスワン」戦略の具体化が急務となる。経済合理性と経済安全保障の狭間で、日本の経営者はかつてなく難しい舵取りを求められている。