中国の四足歩行ロボット開発大手、雲深処科学技術(DeepRobotics)が、新規株式公開(IPO)に向けた準備の最終段階にあることが分かった。同社は世界シェア2位につけるが、先行する米ボストン・ダイナミクスでさえ苦戦する収益化が困難な市場で、いち早く黒字化を達成したと主張。実用性を重視する独自の戦略で業界の常識を覆そうとしている。

IPOへ加速する「世界2位」

中国証券監督管理委員会は5月1日、雲深処科学技術がIPOに向けた証券会社による指導期間を完了したと公表した。同社はわずか5カ月弱でこの段階を終え、上場を急いでいる。過去半年で、政府系ファンドの招銀国際や大手通信事業者の中国電信(チャイナテレコム)、中国聯通(チャイナユニコム)などから5億元(約100億円)超を調達。企業価値は100億元(約2,000億円)規模に達したとみられる。

調査会社IDCによると、2024年の四足歩行ロボット世界市場における同社の販売台数シェアは18.9%で、首位のUnitree(Unitree(宇樹科学技術)、シェア32.4%)を追う位置につけている。

「収益化困難」の定説を覆す黒字化

四足歩行ロボットの商業化は長年の課題だった。世界で最も有名なボストン・ダイナミクスの「Spot」も、1台7万5,000ドル(約1,170万円)という価格が普及の障壁となっている。市場全体も2025年予測で23億ドルと、巨大産業とは言えない。

こうした中、DeepRoboticsが「2023年に黒字転換した」と発表したことは、業界に衝撃を与えた。同社の売上高は2024年に前年比100%超の成長を遂げ、2025年の出荷台数は同200%増の約1万台に達する見込みだという。これにより、2025年の売上高は5億~6億元(約100億~120億円)規模に達すると推定される。これが事実であれば、四足歩行ロボットの販売で利益を上げた世界初の企業となる可能性がある。

成功の鍵は「特定用途」への特化

同社の成功の鍵は、汎用的な技術開発競争を避け、特定の産業用途に深く切り込む「特定用途特化戦略」にある。特に注力するのが、電力施設の巡回点検、消防・救助、工場の保安といった現場だ。例えば、変電所では同社のロボット「絶影X30」が計器の数値を読み取り、異常を検知し、自律的に充電まで行う。

人手不足が深刻なインフラ保守の現場で、人間の作業員数人分の働きを代替できる点が評価され、すでに国家電網などで100台以上の導入実績を持つ。今年4月のドイツ・ハノーバーメッセでも、こうした具体的な産業ソリューションを前面に押し出し、欧州市場の開拓を狙う。IPOを機に、この実用路線をさらに加速させる構えだ。

日本にとっての意味

DeepRoboticsの黒字化とIPOは、日本のロボット産業、特にインフラ点検や防災分野に直接的な影響を与える。同社が2023年に黒字転換を達成し、2025年には出荷台数約1万台、売上高5億~6億元(約100億~120億円)を見込むことは、四足歩行ロボットが収益化可能であることを実証した。これは、これまで高価格と限定的な用途で普及に苦戦してきた日本のロボットメーカーにとって、市場開拓の新たな道筋を示す。

具体的には、日本のインフラ企業は、DeepRoboticsが国家電網で100台以上の導入実績を持つ「絶影X30」のような、電力施設の巡回点検や工場保安に特化したロボットの導入を検討するだろう。これは、少子高齢化による人手不足が深刻化する日本において、効率的なインフラ維持管理のソリューションとして需要が高まる。

また、DeepRoboticsが政府系ファンドの招銀国際や中国電信から5億元(約100億円)超を調達し、企業価値が100億元(約2,000億円)規模に達したことは、中国政府がロボット産業を国家戦略として強力に推進していることを示唆する。これにより、日本のロボットメーカーは、技術開発だけでなく、特定用途に特化したソリューション提供と、迅速な市場投入戦略を強化する必要に迫られる。例えば、日本のロボットメーカーは、ボストン・ダイナミクスの「Spot」のような汎用性を追求するだけでなく、DeepRoboticsのように特定の産業ニーズに深くコミットすることで、新たな市場機会を創出できる可能性がある。