米国の輸出規制強化から3年、中国の半導体自給率は2023年時点で24%に留まり、先端分野での国産化は依然として高い壁に直面している。国家集積回路産業投資基金などを通じ累計40兆円規模の資金が投じられたが、極端紫外線(EUV)露光装置や先端検査装置の欠如が生産効率の足枷となっているのが実態だ。この状況は、サプライチェーンの上流を握る日本の装置・材料メーカーに、新たな事業機会と地政学的な危険性を同時にもたらす。

国産化投資40兆円の到達点

中国政府が主導する半導体国産化政策は、巨額の資金投入にもかかわらず、目標達成には程遠い状況にある。2014年に設立された国家集積回路産業投資基金、通称「大基金」は、第1期(約2.5兆円)、第2期(約3.7兆円)に続き、2024年5月には過去最大となる第3期(約6.5兆円)を設立。累計投資規模は公表分だけで12兆円を超え、地方政府や民間からの投資を含めると総額は40兆円に達すると見られる。しかし、米調査会社IC Insightsが2024年3月に公表した報告書によれば、2023年の中国国内における半導体生産額のうち、中国系企業が製造したのは全体のわずか24%で、2028年時点でも30%に届かないと予測されている。これは、2015年に掲げた「中国製造2025」が目標とした2025年自給率70%から大きく乖離する数値だ。国内最大手ファウンドリーの中芯国際集成電路製造SMIC)は、米国の制裁下で既存の深紫外線(DUV)露光装置を駆使し、7ナノメートル(nm)世代の半導体を製造したと報じられた。しかし、これは経済合理性を度外視した成果との見方が支配的だ。先端露光装置なしで微細化を実現する多重露光技術は、製造工程の複雑化と歩留まりの著しい低下を招くためである。

なぜ先端装置の国産化は進まないのか?

先端半導体製造の国産化が進まない最大の要因は、中核工程を担う製造装置、特にリソグラフィー(露光)装置を自国で開発・量産できていない点にある。回路パターンをウエハーに転写する露光工程は、半導体の性能を決定づける最重要部分だ。7nm以下の最先端プロセスに不可欠なEUV露光装置は、オランダのASMLが世界市場を100%独占しており、米国の輸出規制によって中国への供給は絶たれている。中国の国産露光装置メーカー、上海微電子装備(SMEE)は、ArF液浸DUV露光装置「SSA/800-10W」の開発を進めているが、その解像度は28nmプロセス相当に留まる。これはASMLの現行主力機「TWINSCAN NXT:2100i」が対応する7nmプロセスと比べ数世代前の技術水準であり、性能差は埋めがたい。EUVが使えない場合、DUV光で微細な回路を描くには、同じ箇所に複数回露光を重ねる「多重露光」という手法を用いる。例えば、20nmの回路を形成するのに1回の露光で済むところ、10nmの回路を形成するには露光とエッチングの工程を2回繰り返す必要がある。SMICが7nmを実現したとされる手法もこれに類するが、工程数が2倍、3倍と増えるにつれて、ウエハー1枚あたりの処理時間は長くなり、欠陥が発生する確率も指数関数的に増加する。業界筋によれば、この手法によるSMICの7nmプロセスの歩留まりは30%を下回るとされ、商業生産に乗せるには採算性が極めて低い。米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月に発表した包括的規制は、こうした「抜け道」を封じるため、多重露光に不可欠な各種エッチング装置や成膜装置、検査装置にまで対象を広げている。

「装置の穴」を埋める日本の存在感

中国の半導体国産化の試みは、逆説的に日本の装置・材料メーカーの不可欠性を浮き彫りにしている。米国が規制の焦点をEUV関連の最先端分野に絞る一方、DUVを用いる28nm以上の成熟・旧世代プロセス向け装置の多くは、依然として輸出が可能だ。この領域で日本の存在感は際立っている。例えば、回路パターンを形成するフォトレジスト(感光材)をウエハーに均一に塗布し、現像するコータ・デベロッパは東京エレクトロン(TEL)が世界シェア約9割を握る。また、ウエハーの不純物を洗浄する装置ではSCREENホールディングスが、ウエハーを個々の半導体素子に切り分けるダイシングソーではディスコが、それぞれ5割以上の世界シェアを持つ。財務省が公表した貿易統計によると、2023年の日本の半導体製造装置の輸出額のうち、中国向けは4割超を占め、最大の仕向け地となっている。中国のファウンドリーは、米欧の先端装置が入手できない分、旧世代ラインの生産能力増強に活路を見出しており、そこでは日本製の装置が中核を担う。材料分野でも同様で、JSRや信越化学工業、東京応化工業などが世界シェアの大半を占めるArF液浸露光用フォトレジストや、ステラケミファが供給する高純度フッ化水素は、中国企業が短期間で代替品を開発するのは困難と見られている。

検査・計測装置という第二の急所

露光装置の壁に加え、中国の半導体産業が直面するもう一つの深刻な課題が、検査・計測装置の欠如である。半導体製造は数百の工程を経て行われるが、各工程の終了時にウエハー上の回路パターンが設計通りに形成されているか、異物や欠陥がないかを精密に検査する必要がある。この検査工程での不良検出が遅れると、その後の工程が無駄になり、最終的な歩留まりが大幅に低下するためだ。特に微細化が進むほど、原子レベルの微小な欠陥を見つけ出す能力が求められる。この分野では、米国のKLAが欠陥検査装置で世界シェアの約5割を占めるほか、日本のレーザーテックがEUVプロセス用のマスクブランクス(回路の原版)検査装置で市場を独占している。レーザーテックの装置「ACTIS A150」は、EUV光と同じ波長の光を用いてマスクブランクス内部の微細な欠陥を検出できる唯一の製品であり、代替技術は存在しない。米国政府の規制はこれらの先端検査装置にも及んでおり、中国企業は入手することができない。国産化を目指す中国の長沙中電科電子装備や東方晶源微電子科技といった企業も存在するが、KLAやレーザーテックの製品が持つナノメートル単位の検出精度やスループット(処理能力)には遠く及ばないのが現状だ。先端の「目」を持たないまま製造ラインを稼働させることは、いわば目隠しで精密機械を組み立てるようなものであり、安定した品質と高い歩留まりの達成を著しく困難にしている。

日本企業が直面する選択

中国の半導体国産化に向けた動きは、日本の関連企業に複雑な選択を迫っている。短期的には、中国の旧世代・成熟プロセス向け半導体への旺盛な設備投資が、日本の装置・材料メーカーにとって大きな収益源となっている。東京エレクトロンの2024年3月期決算では、売上高に占める中国向け比率が47%に達するなど、中国市場への依存度は年々高まっている。しかし、この関係は地政学的な危険性と隣接している。米国は、中国の半導体技術の進展を安全保障上の脅威とみなし、規制を段階的に強化してきた。2023年には日本とオランダにも同調を求め、日本政府は先端半導体製造装置23品目を輸出管理の対象に追加した。今後、規制対象がDUVを用いた旧世代プロセスにまで拡大される可能性は否定できない。そうなれば、日本企業の事業戦略は根本的な見直しを迫られる。一方で、中国は日本の技術への依存を低減するため、装置や材料の国産化をさらに加速させるだろう。その過程で、日本の技術者を高額な報酬で引き抜く動きや、特許侵害などの知的財産を巡る紛争が頻発する懸念もある。日本企業は、目先の収益機会を追求しつつも、米国の規制動向を注視し、中国以外の市場を開拓することで特定地域への依存度を引き下げる「デリスキング(危険低減)」を具体的に進めなければならない。技術的優位性を維持するための研究開発投資を継続すると同時に、経済安全保障の観点から自社の技術や人材をいかに保護していくか。その戦略的な舵取りが、企業の将来を左右することになる。