中国が策定準備を進める第15次5カ年計画(2026〜30年)は、先端半導体分野での対外技術依存を当面容認しつつ、成熟(レガシー)半導体の国内供給網確立を加速させる二正面戦略が核となる。米国の輸出規制にもかかわらず、2023年の半導体製造装置輸入額は前年比14%増の約396億ドルに達した。その裏で、国内では中芯国際集成電路製造(SMIC)や華為技術(ファーウェイ)が7ナノメートル(nm)世代の技術確立を進める。日本の装置・材料産業は、活況を呈する商機と地政学リスクの狭間で、かつてない複雑な判断を迫られている。
先端装置輸入と「迂回」の構造
中国の半導体国産化戦略は、逆説的に海外製装置への依存を深めている。中国税関総署が2024年1月に発表した統計によると、2023年の半導体製造装置の輸入総額は396億ドル(約5.9兆円)に達し、前年から14%増加した。これは米国の対中輸出規制が本格化した2022年10月以降も、特定分野での輸入が止まっていない実態を示す。最大の供給元はオランダのASMLだ。同社の2023年通期決算では、中国向け売上高が全体の29%を占め、前年の14%から倍増した。米国の規制は最先端のEUV(極端紫外線)露光装置の輸出を禁じているが、一つ前の世代にあたるDUV(深紫外線)露光装置の一部は対象外だった。この「抜け穴」を通じ、SMICや長江存儲科技(YMTC)といった中国企業が、規制強化を見越してASML製「NXT:2050i」や「NXT:2100i」といった液浸ArF露光装置の駆け込み調達を続けたと見られる。これらの装置は、複数回の露光を繰り返す「マルチパターニング」技術を駆使すれば、論理上7nm世代の半導体製造が可能だ。中国は先端国産化の野心を捨てず、当面は輸入装置で時間を稼ぐ現実的な選択をしている。
なぜ成熟半導体の国産化を急ぐのか
中国が真に注力するのは、先端分野と並行して進める成熟(レガシー)半導体の国内生産体制の確立だ。レガシー半導体とは、主に回路線幅が28nmより太い世代の製品を指し、電気自動車(EV)の電力制御、産業機器、白物家電など幅広い用途で需要が根強い。米国の規制が先端ロジック半導体やメモリーに集中する一方、この領域は比較的制約が緩い。台湾の調査会社トレンドフォースは2024年3月の報告で、世界の28nm以上の成熟プロセス生産能力に占める中国のシェアが、2023年の31%から2027年には39%へ拡大すると予測した。同期間に台湾のシェアは49%から42%へ低下する見込みで、需給バランスの変化は必至だ。中国政府は国内の半導体受託製造会社(ファウンドリー)に対し、巨額の補助金を投じて工場建設を後押ししている。米半導体工業会(SIA)の分析では、今後10年で中国の成熟半導体生産能力は世界市場の半分近くを占める可能性があり、これは価格競争力の源泉となる一方、他国にとっては供給網の過度な依存という新たな安全保障上の課題を生む。先端技術で米国に追いつく長期目標と、足元の産業基盤を固める中期目標を同時に追求しているのが実態だ。
SMIC・ファーウェイ連合の技術到達点
国産化路線の象徴が、SMICとファーウェイの連携による先端プロセッサーの開発だ。米調査会社テックインサイツが2023年9月に公開した分解調査で、ファーウェイの新型スマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載されたプロセッサー「Kirin 9000S」が、SMICの7nmプロセス「N+2」で製造されたことが判明した。これは、輸入したDUV露光装置を駆使して実現したもので、米国の規制下で中国が到達した技術水準を示すマイルストーンとなった。ただし、その製造効率は芳しくないとされる。業界筋によれば、SMICの7nmプロセスの良品率(ウエハーから取れる正常な半導体の割合)は、台湾積体電路製造(TSMC)の同世代プロセスが90%を超えるのに対し、50%以下にとどまると推測される。これは製造コストの高騰に直結し、現時点では商業ベースでの大規模量産には課題が多いことを示唆する。また、製造装置の国産化率は依然として低い。中国の装置大手、北方華創科技集団(Naura)や中微半導体設備(AMEC)はエッチングや成膜装置でシェアを伸ばしているが、製造工程の中核をなすリソグラフィー(露光)分野では上海微電子装備(SMEE)が90nm世代にとどまり、海外依存から脱却できていない。SMICの躍進は「既存技術の応用」の限界を示す事例とも言える。
日本の装置・材料産業が握る鍵
中国の二正面戦略は、日本の半導体関連産業に複雑な影響を及ぼしている。東京エレクトロン(TEL)が公表した2024年3月期第3四半期決算では、地域別売上高に占める中国の割合が46.9%に達し、過去最高を記録した。これは主にレガシー半導体工場向けの成膜・エッチング装置の需要が旺盛なためだ。同様に、ウエハー洗浄装置のSCREENホールディングスや、切断・研削装置のディスコも対中ビジネスが業績を支える。一方で、日本政府は2023年7月、米国と協調し、先端半導体製造装置23品目の輸出管理を強化。TELの先端液浸ArF露光装置などが対象となり、中国の先端プロセス開発に一定の歯止めをかけた。しかし、規制対象外の装置や部材では、日本の存在感がむしろ高まっている。特に、半導体の回路パターンを形成する感光材「フォトレジスト」では、JSR、信越化学工業、東京応化工業といった日本企業がDUV向けで世界市場の約6割、最先端のEUV向けでは9割以上のシェアを握る。また、シリコンウエハーでも信越化学とSUMCOで世界シェアの約5割を占める。中国は半導体サプライチェーンの上流、特に日本が強みを持つ素材や精密部品の供給なしに自給網を完結させることは不可能であり、この点が日本の交渉力となっている。
日本企業が直面する二律背反
中国の「第15次5カ年計画」が示す方向性は、日本企業に対して、経済合理性と経済安全保障という二律背反の課題を突きつける。短期的には、中国の旺盛な設備投資は日本の装置・材料メーカーにとって大きな事業機会だ。財務省の貿易統計によれば、2023年の半導体等製造装置の対中輸出額は前年比10.6%増の1兆8571億円に上り、活況を呈している。しかし、この取引が中国の半導体生産能力を増強し、将来的には日本や同盟国の産業基盤を脅かす可能性も否定できない。特に、中国が世界シェアの過半を握ると予測されるレガシー半導体分野では、不公正な価格競争や、地政学的な緊張が高まった際の供給停止といったリスクが現実味を帯びる。2023年に中国が発動したガリウムとゲルマニウムの輸出規制は、その予行演習と見る向きも多い。日本企業は、米国主導の規制を順守しつつ、中国市場との関係を維持する「デリスキング(リスク低減)」を具体化する必要がある。具体的には、中国国内の最終顧客や用途を厳格に審査する体制の強化、生産拠点の多元化、そしてレガシー半導体の国内生産能力を再強化するラピダスなどの国家プロジェクトへの参画が選択肢となる。中国の対外開放政策を額面通りに受け取るのではなく、その裏にある国家戦略を冷静に分析し、技術的優位性を保ちながらリスクを管理する高度な経営判断が不可欠だ。
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