中国共産党が2025年の経済運営方針として「新たな質の生産力」の発展を最優先課題に掲げ、半導体や人工知能(AI)分野における技術的自立を追求する姿勢を鮮明にした。2024年12月に北京で開かれた中央経済業務会議で固まったこの方針は、米国の厳格な輸出規制への直接的な対抗策と位置づけられる。国家集積回路産業投資基金などを通じ、年間1兆元(約20兆円)規模の資金が中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)といった国内半導体企業に重点配分される見通しだ。しかし、製造工程に不可欠な先端フォトレジストや高純度化学材料では日本企業が世界市場の寡占を維持しており、この供給網上の構造的依存が、中国の国産化路線の大きな制約となる可能性を技術投資家や経営層は注視する必要がある。
「新たな質の生産力」の技術的内実
中国指導部が掲げる「新たな質の生産力」という言葉は、単なる経済スローガンではない。これは、AI、量子情報、バイオ製造といった先端分野で米国との技術覇権争いに勝利するための国家戦略の核心である。その最重要領域と位置づけられるのが半導体だ。会議では、国内の需要を満たすだけでなく、世界市場で競争力を持つ供給網を国内に築き上げる目標が改めて確認された。具体的には、国家集積回路産業投資基金の第三期計画が発足し、その規模は過去最大だった第二期の2041億元を大幅に上回る3440億元(約7兆円)に達した。この資金の大半は、半導体製造装置と材料の国産化プロジェクトに向けられると見られる。
しかし、その道のりは平坦ではない。中国の半導体受託製造最大手SMICは、オランダASML製の旧型である液浸ArF露光装置を用いて7ナノメートル(nm)世代の半導体製造に成功したとされる。だが、これは本来1世代前のEUV(極端紫外線)露光装置を用いるべき工程を、複数回の露光で代替する「ダブルパターニング」技術を駆使した結果だ。業界の技術者の間では、この手法による歩留まり率は30%を下回るとの観測が支配的で、商業生産の採算ラインには程遠い。米国の規制によりASMLの最新EUV露天装置「NXE:3800E」や高NA(開口数)機「EXE:5200」の導入が絶望的な中、中国が自力で先端半導体の量産体制を確立するには、物理原理の壁を越える革新が求められる。
国産化の急所、製造装置と先端材料
中国の技術的自立に向けた取り組みで、最大の障壁となっているのが製造装置と先端材料の分野だ。特に半導体製造工程の中核をなすリソグラフィー(露光)では、上海微電子装備(SMEE)が開発した国産装置「SSA/800-10W」の解像度が28nm世代に留まる。これは、世界の先端工場で稼働するASML製EUV装置が実現する5nm以下の世代とは10年以上の技術格差があることを意味する。エッチング装置では中微半導体設備(AMEC)、成膜装置では北方華創科技集団(Naura)が一定の国内シェアを確保しつつあるが、いずれも14nmより前の成熟工程が主戦場だ。米調査会社ガートナーの2023年時点の分析によれば、中国の半導体製造装置の自給率は依然として20%台前半に過ぎない。
さらに深刻なのが、日本の独壇場ともいえる先端材料分野への依存である。EUVリソグラフィー工程で不可欠なフォトレジスト(感光材)は、JSR、信越化学工業、東京応化工業の日本企業3社で世界市場の約9割を占める。半導体の基板となるシリコンウエハーも、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの約6割を握る。これらは単なる材料供給ではなく、東京エレクトロン製の塗布・現像装置(コータ/デベロッパ)など、日本の製造装置との「すり合わせ」を経て初めて性能を発揮する。中国企業が装置か材料のどちらか一方を国産品に置き換えても、既存の量産工程全体の歩留まりが著しく悪化するため、代替は事実上不可能に近い。この供給網の現実は、中国の国家目標にとって最大の計算違いとなり得る。
なぜ日本からの技術依存は断ち切れないのか?
中国が巨額の国家投資や人材獲得を進めても、半導体材料分野における日本からの技術的依存を容易に解消できない背景には、この産業特有の「擦り合わせの文化」が存在する。半導体の高性能化は、装置メーカー、材料メーカー、そして半導体メーカーの技術者が製造現場で緊密に連携し、何千ものパラメーターを微調整する地道な作業の積み重ねによって達成されてきた。例えば、JSRが開発した最新のEUV向けフォトレジストは、ASMLの露光装置と東京エレクトロンの塗布・現像装置上で性能が最大化されるよう、分子構造レベルから設計されている。この種の暗黙知は特許明細書や学術論文には現れず、技術者の頭脳と組織文化に宿るため、単純なリバースエンジニアリングや人材引き抜きだけでは模倣が極めて困難である。
加えて、半導体材料には極めて高い純度が要求される。シリコンウエハー表面の洗浄に用いる高純度フッ化水素は、金属不純物をppb(10億分の1)どころかppt(1兆分の1)の単位で管理する必要がある。この超高純度化技術と品質管理体制は、ステラケミファや森田化学工業といった日本企業が数十年かけて培ってきたものだ。中国国内でも代替品の開発は進められているが、純度のばらつきが原因で歩留まりが安定せず、先端半導体の量産ラインで採用された例は報告されていない。米国の対中規制が強化される中で、中国の半導体メーカーはむしろ日本からの材料調達を増やしているのが実情であり、台湾経済部の2024年11月の統計によれば、台湾経由で中国大陸に再輸出される日本の化学材料は前年同期比で12%増加した。この事実は、技術的自立の掛け声とは裏腹に、日本への依存がむしろ深まっている逆説的な状況を示している。
迫られる米中「二重供給網」への対応
中央経済業務会議で示された方針は、世界の半導体供給網が米国主導のブロックと中国主導のブロックに本格的に分断される未来を不可避なものとして印象付けた。米国は2022年10月の輸出規制強化以降、同盟国である日本やオランダにも同調を求め、先端半導体技術の中国への流出を阻止する「壁」を築いている。これに対し、中国は国内の巨大市場を武器に、独自の技術標準と供給網を構築する「内循環」戦略で対抗する構えだ。このデカップリング(分断)の動きは、これまで世界市場を一体のものとして事業を展開してきた企業に、根本的な戦略転換を迫る。
特に、東京エレクトロンやアドバンテストといった日本の半導体製造装置メーカーは、難しい舵取りを要求される。2023年度の決算を見ると、多くの装置メーカーにとって中国市場は売上高の3割から4割を占める最大の収益源だ。米国の規制対象外である28nmより前の成熟工程向けでは、中国での半導体工場の新設が相次いでおり、旺盛な需要が続いている。しかし、先端技術の開発で米国との連携が不可欠である以上、米政府の意向を無視することはできない。結果として、最先端の装置は米国・台湾・韓国向けに、一世代以上前の装置は中国向けに、という二重の製品・販売戦略を採らざるを得ない状況が生まれている。これは開発資源の分散やコンプライアンス費用の増大を招き、中長期的な経営の重荷となる可能性がある。
日本企業が直面する複眼的な選択
中国が掲げる「新たな質の生産力」と技術的自立路線は、日本企業にとって単純な脅威でも機会でもない、複雑な問いを突きつけている。装置分野では、中国の国産化推進が長期的には日本のシェアを侵食する脅威となる一方で、短期的には成熟工程向けの巨大な市場を提供する。材料分野では、中国の技術的限界が日本企業への依存を当面継続させるため、安定した収益源となり得るが、地政学的な緊張がいつ供給停止リスクに転化するか予測は困難だ。
この状況下で日本企業に求められるのは、中国市場への依存度を客観的に評価し、供給網の多角化を具体的に進めることである。経済産業省が2024年5月に発表した「経済安全保障推進法に基づく特定重要物資」の指定は、半導体材料の国内生産回帰を促す動きの一つだ。同時に、中国が国策として推進する環境技術やデジタルヘルスケアといった分野では、新たな協業の機会も存在する。中国の政策意図を深く理解し、技術の優位性を保ちながら、リスクを管理する複眼的なアプローチが不可欠となる。米中対立というマクロな潮流と、半導体製造現場のミクロな技術的現実、その両方を視野に入れた戦略構築が、今後の日本企業の競争力を左右することになるだろう。