2026年4月、中国のエンボディードAI(物理AI)産業でデータ収集を巡る競争が激化している。新興企業の它石智航がプレシリーズAラウンドで4.55億ドル(約680億円)を調達したほか、JD.com (JD.com(京東)集団) も大規模なデータ収集基盤の構築を発表。高品質なデータが、同産業のブレークスルーの鍵となっていることが鮮明になった。
巨額の資金調達が相次ぐ
エンボディードAI開発を手がける它石智航は2026年4月、プレシリーズAラウンドの資金調達を完了したと発表した。調達額は4.55億ドルに上り、中国の同分野における単一ラウンドの調達額として過去最高を更新した。同業界では資金調達が活発化しており、同月には光輪智能も第1四半期に5.5億元(約110億円)の受注を獲得し、3月には10億元の資金調達を完了したと明らかにしている。
大手もデータ基盤の構築を急ぐ。EC大手のJD.comは同月、業界初となるエンボディードAI向けの「エンドツーエンドのデータ基盤」を発表。新華社通信によると、JD.comは10万人の従業員と50万人の外部協力者を動員し、大規模なデータ収集に乗り出す計画だ。
成功の鍵握る4つのデータ収集技術
エンボディードAIの性能向上には、多様で高品質な学習データが不可欠であり、その収集・処理技術が競争力の源泉となる。現在、中国では主に4つの技術アプローチが存在する。
- 遠隔操作による実機でのデータ収集: 人間がロボットを遠隔操作し、作業データを収集する。
- ポータブルデバイスによる収集: 作業者が装着したデバイスを通じて、人間の動きや視線データを収集する。
- シミュレーションによる合成データ生成: 仮想空間で多様なシナリオを生成し、効率的にデータを生み出す。
- 人間の自然な動作からのデータ収集: 人間の日常的な動作を撮影・解析し、ロボットの学習データとする。
これらの技術はそれぞれに長所と短所があり、各社は最適な手法を組み合わせることで、データ獲得競争を優位に進めようと模索している。
日本市場への影響
中国エンボディードAI企業のデータ収集競争激化は、日本企業にとって複数の具体的な影響をもたらす。まず、它石智航がプレシリーズAラウンドで4.55億ドルを調達したことや、JD.comが10万人規模の従業員を動員してデータ基盤を構築している事実は、中国がこの分野で圧倒的な資金力と人的リソースを投入していることを示唆する。これにより、日本企業が単独で同規模のデータセットを構築し、中国企業と技術競争で伍していくことは極めて困難になる。特に、遠隔操作による実機データ収集やポータブルデバイスによる人間動作データの収集といった、実世界からの多様なデータ取得において、中国の規模的優位性は顕著だ。
次に、日本企業は、中国市場への参入戦略を再考する必要がある。例えば、中国のエンボディードAI市場で協業を検討する際、JD.comのような巨大プラットフォーマーがすでに保有する大規模データ基盤や、它石智航のようなスタートアップが持つ特定のデータ収集技術へのアクセスをどう確保するかが重要となる。単なる製品供給ではなく、データ共有や共同開発といったより深い連携が求められるだろう。
最後に、日本の製造業、特にロボット開発企業は、中国がシミュレーションによる合成データ生成技術を急速に発展させる可能性を考慮すべきだ。中国企業が仮想空間での効率的なデータ生成で先行すれば、実機テストのコストや時間を大幅に削減し、開発サイクルを加速させる。日本の強みである精密なハードウェア技術だけでは競争優位を保てなくなり、ソフトウェアやデータ生成技術への投資を加速させる必要性が高まる。