世界の主に航空会社が、持続可能な航空燃料(SAF)への戦略的投資を加速させている。欧米やアジアの航空各社は、サプライチェーン(供給網)の確保と燃料価格変動リスクのヘッジを目的として生産企業への出資や合弁事業設立に乗り出しており、今後のSAF産業の勢力図を左右する動きとなっている。一方、中国の主に航空会社による戦略的な株式投資は現時点では限定的で、今後の対応が問われている。
戦略資源化するSAF、投資競争が本格化
持続可能な航空燃料(SAF)は、単なるESG(環境・社会・ガバナンス)目標達成の手段にとどまらず、従来のジェット燃料に依存しない事業継続性を支える「戦略的資源」へとその位置づけを変えつつある。2015年以降、世界の航空会社はSAF生産への戦略的投資を活発化させてきた。約30件の主にな投資案件を分析すると、その普及の速さと参加企業の質の高さが際立つ。特に、航空会社が直接、生産能力の上流段階へ資本参加する動きは、将来のSAF市場の形成に決定的な影響を及ぼすとみられる。
米ユナイテッド航空が投資を先導
SAF投資の潮流は、2015年6月に米ユナイテッド航空が米バイオ燃料企業フルクラム・バイオエナジー(Fulcrum BioEnergy)に3000万ドルを出資したことに端を発する。これは、当時の米航空会社による代替燃料への単独出資額としては最大で、SAF生産者への直接投資の先駆けとなった。
ユナイテッド航空はその後も攻勢を強めている。2021年9月にはハネウェルと共同でアルダー・フューエルズ(Alder Fuels)と15億ガロン(約450万トン)に上るSAF購入契約を締結。2023年2月には、SAFに特化した1億ドル規模の「サステナブル・フライト・ファンド」を設立し、エア・カナダ、ボーイング、GEエアロスペースなど多くの企業と連携して投資を拡大している。
静観する中国勢、競争力低下のリスク
世界の航空業界で投資が加速する一方、中国の航空会社による戦略的な株式投資は現時点ではほとんど見られない。これは燃料供給リスクのヘッジや事業継続性の観点から、国際競争力に影響を及ぼす可能性がある。
中国の航空会社が今後、どのようにSAFのサプライチェーンに関与していくかが重要な焦点となる。SAFの技術開発や生産能力拡大に向けた資本参加は、将来的な燃料コストや供給安定性に直結するため、早期の対応が求められる。
結論:日本への示唆
SAF投資における中国勢の出遅れは、日本企業にとって複数の事業機会とリスクをもたらす。まず、中国航空会社がSAFサプライチェーンへの戦略的投資をほとんど行っていない現状は、日本の航空会社や商社にとって、アジア市場におけるSAF供給網構築の主導権を握る好機となる。特に、ユナイテッド航空がフルクラム・バイオエナジーに3000万ドルを出資し、アルダー・フューエルズと15億ガロンの購入契約を結んだ事例は、先行投資が将来の燃料確保にいかに重要かを示している。日本企業が中国市場の需要を取り込む形でSAF生産企業への出資や合弁事業を加速させれば、アジアにおけるSAF供給ハブとしての地位を確立できる可能性がある。
次に、中国がSAF調達で後手に回れば、中国発着の国際線運航においてSAFの入手が困難になる、あるいは高コストになるリスクが生じる。これは、中国市場に依存する日本の航空会社や、中国を生産拠点とする日本の製造業にとって、サプライチェーンの安定性や輸送コストに影響を及ぼす。例えば、日本航空や全日本空輸が中国路線を運航する際、SAFの調達コストが他社より高くなれば、競争力低下に繋がりかねない。
最後に、中国政府が国内SAF産業の育成に本腰を入れた場合、技術や資金面で日本企業との連携を模索する可能性も考えられる。日本のSAF関連技術を持つ企業は、中国市場への参入や共同開発の機会を得ることで、新たな収益源を確保できる。ただし、その際には技術流出や知的財産保護のリスクを慎重に評価する必要がある。
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