中国国家税務総局 (State Taxation Administration) が5月15日に発表した統計によると、2024年第1四半期(1-3月期)の従業員基本的に医療保険の保険料収入は、前年同期比5.3%増5981億元(約12.8兆円)に達した。納付者数も同1.8%増の2.6億人となり、一見すると制度の安定性が示された形だ。しかし、13億人以上をカバーするこの巨大な社会保障システムは、急速な高齢化と地方財政への過度な依存という構造的な課題を抱えており、その持続可能性を巡る議論は今後さらに熱を帯びる見通しだ。安定成長の数値の裏で、中国社会が直面する長期的な試練が浮かび上がる。

デジタル化で徴収強化、収入5.3%増の裏側

人民日報の5月15日付報道によると、今回の収入増は、中国経済の緩やかな回復と雇用情勢の安定が背景にある。第1四半期に保険料を納付した従業員数は前年から約460万人増加した。これに退職者や、別制度である「都市部・農村部住民基本的に医療保険」の加入者を合わせると、中国の基本的に医療保険の加入者総数は13億人超で安定的に推移している。

中国の公的医療保険は、主に二つの制度から構成される。一つは都市部の被雇用者を対象とする「従業員基本的に医療保険」で、保険料は労使折半で負担し、給付水準は比較的手厚い。もう一つが、自営業者や農民、学生などを対象とする「都市部・農村部住民基本的に医療保険」だ。こちらの保険料は個人の定額負担と政府の財政補助で賄われる。

徴収体制の強化も収入増に寄与した。税務部門と医療保険部門が連携し、全国でオンラインによる保険料納付システムを整備。オンラインでの業務処理比率は95%以上を維持しているという。さらに、デジタル機器の操作に不慣れな層に対応するため、全国に5000カしたがって上の「利便性向上のための優先窓口」を設置し、徴収網を隅々まで広げている。

国民皆保険達成への30年、制度乱立から統合へ

中国が現在のような巨大な医療保険制度を構築するまでの道のりは、試行錯誤の連続だった。改革開放以前の計画経済時代には、国有企業の従業員や公務員は手厚く保障されていたが、大多数を占める農民は保障の枠外に置かれていた。

この状況を転換する契機となったのが、1998年に国務院が発布した「都市部従業員基本的に医療保険制度の確立に関する決定」である。これにより、都市部の被用者を対象とした社会保険方式の制度が全国で導入され、現代的な医療保険制度の礎が築かれた。

その後、保障の空白地帯を埋める取り組みが加速する。2003年には農村部住民を対象とする「新型農村協力医療制度(新農合)」が、2007年には都市部の非就業者を対象とする「都市住民基本的に医療保険制度」が相次いでスタート。これにより、2011年末には加入者数が13億人を突破し、カバレッジ率95%以上という「国民皆保険」が実質的に達成された。

しかし、制度が乱立したことで、従業員保険、都市住民保険、新農合の間で保険料や給付水準に大きな格差が生じ、公平性の観点から批判が噴出した。これを受け、中国政府は2016年頃から、都市住民保険と新農合を統合し、「都市部・農村部住民基本的に医療保険」へと一本化する改革を推進。これにより、地域や戸籍による保障格差の是正を図ってきた。この一連の改革は、中国の社会保障制度史における重要なマイルストーンと位置づけられる。

高齢化と地方財政、持続性を揺るがす二つの時限爆弾

第1四半期の安定した保険料収入は、短期的な制度運営の健全性を示すものだが、その背後には無視できない構造的な脆弱性が存在する。最大の課題は、世界で最も速いペースで進む少子高齢化だ。

中国の国家統計局によると、2023年末時点の65歳以上人口は2億1700万人に達し、総人口に占める割合は15.4%となった。この比率は、日本の約30%には及ばないものの、今後急激に上昇することが確実視されている。高齢化は必然的に医療需要を増大させ、保険財政を圧迫する。保険料を納める現役世代が減少し、医療給付を受ける高齢者が増加する構造は、制度の持続可能性を根底から揺るがしかねない。

もう一つの課題は、住民保険の財政補助への過度な依存である。西南財経大学の湯継強教授は、住民保険において財政補助が基金収入の60%以上を安定的に占めている点を指摘する。この構造は、経済成長が順調な時期には機能するが、不動産不況の長期化で地方政府の財政が深刻な打撃を受ける中、この補助を将来にわたって維持・増額できるかは不透明だ。実際に一部の地方では、公務員の給与遅配が報じられるなど、財政の逼迫は現実のものとなっている。

観測筋の見方では、中国政府はデジタル化による徴収効率の向上や、医薬品の集中購入制度によるコスト削減といった対症療法を進めているが、これだけで構造問題を解決するのは困難だとされる。長期的な持続可能性を確保するためには、保険料率の引き上げや給付範囲の見直しといった、国民に痛みを強いる改革が避けられないとの指摘が強い。今回の安定した数値は、嵐の前の静けさである可能性も否定できない。

日本市場への影響

中国の医療保険制度は、1-3月期の収入が5.3%増の約12.8兆円に達し、加入者数も1.8%増の2.6億人となった。中国国家税務総局の統計によると、デジタル化による徴収強化が収入増に寄与した。オンラインでの業務処理比率は95%以上を維持し、全国に5000カ所以上の「利便性向上のための優先窓口」を設置している。

しかし、中国医療保険制度は、高齢化と地方財政の悪化という構造的な課題を抱えている。制度の持続可能性を巡る議論は今後さらに熱を帯びる見通しである。中国の社会保障制度は、国有企業の従業員や公務員を対象とした手厚い保障から始まり、1998年の「都市部従業員基本的に医療保険制度の確立に関する決定」により、都市部の被用者を対象とした社会保険方式の制度が導入された。2003年には農村部住民を対象とする「新型農村協力医療制度(新農合)」が、2007年には都市部の非就業者を対象とする「都市住民基本的に医療保険制度」がスタートした。

これらの制度の乱立により、保険料や給付水準に大きな格差が生じ、公平性の観点から批判が噴出した。中国政府は2016年頃から、都市住民保険と新農合を統合し、「都市部・農村部住民基本的に医療保険」へと一本化する改革を推進し、地域や戸籍による保障格差の是正を図ってきた。日本の企業は、中国の医療保険制度の変化に注目し、ビジネス戦略を再考する必要がある。中国の高齢化と地方財政の悪化は、日本の企業にとって新たなリスクをもたらす可能性がある。一方で、中国の医療保険制度の改革は、日本の企業にとって新たなビジネス機会をもたらす可能性もある。