中国で、質の高い医療を求める中間層を対象とした高級クリニックが急成長している。創業者である王志遠氏が率いるクリニックは、「医療の原点回帰」を掲げ、過剰な検査や投薬を避ける方針が支持を集める。2024年の売上高は9億5900万元(約190億円)に達し、患者数も3年で7割増加した。
中間層に広がる高級クリニック
北京大学と北京協和医院出身の王志遠氏が深圳(しんせん)で創業した高級クリニックが、中国の中間層を中心に支持を広げている。質の高い医療サービスと快適な環境を特徴とし、特に子供の健康への関心が高い家庭からの需要を取り込んでいる。
同クリニックは、米国式の小児保健システムを導入。診察時間を一人あたり30分と長く確保し、人気の医師は1日の診察人数を10人程度に限定することで、丁寧な診療を実現している。
「医療の原点回帰」が支持される理由
王氏は「医療の原点回帰」を経営理念に掲げ、過剰な検査や不必要な投薬を避ける方針を徹底している。このアプローチが、公立病院での画一的な診療に不満を持つ患者から高く評価されている。特に小児科領域での支持が厚い。
事業は急速に拡大しており、年間延べ患者数は2022年の52万9800人から2024年には90万5800人へと約71%増加した。2025年は1月から8月までの累計で既に54万1000人に達しており、そのうち約3割を小児が占める。2024年の売上高9億5900万元のうち、小児科が約2億元を占めたと現地メディアは報じている。
今後の展望
王氏は、今後も質の高い医療サービスの提供を継続し、事業を拡大していく考えを示している。中国では経済成長に伴い、健康への投資意欲が高まっている。特に、一人っ子政策の影響が残る都市部の中間層以上では、子供の医療に対する支出を惜しまない傾向が強い。こうした社会背景が、高級クリニック市場の成長を後押ししている。
日本企業への示唆
中国の高級クリニック市場の急成長は、日本企業にとって二つの明確な機会と一つのリスクを示す。まず、王志遠氏のクリニックが2024年に9億5900万元(約190億円)の売上を達成し、患者数が3年で7割増加した事実は、中国中間層の「質の高い医療」への強い需要を裏付ける。これは、日本の医療機器メーカーや医薬品メーカーにとって、高付加価値製品の輸出拡大の機会となる。特に、米国式の小児保健システム導入や丁寧な診察といったニーズに対応できる、精密医療機器や小児向け医療技術を持つ企業は、深圳をはじめとする大都市圏の富裕層・中間層市場への参入を検討すべきである。
次に、同クリニックが「医療の原点回帰」を掲げ、過剰な検査や投薬を避ける方針が支持されている点は、日本の医療ツーリズムにとって追い風となる。中国の富裕層・中間層は、より丁寧で個別化された医療サービスを求めており、日本の人間ドックや専門外来、特に小児科領域での高度な医療技術は、彼らにとって魅力的な選択肢となり得る。日本の医療機関は、中国の高級クリニックと連携し、相互紹介や共同プロモーションを行うことで、新たな患者層を獲得できる可能性がある。
一方で、中国国内での高級医療サービスの台頭は、日本への医療ツーリズムを検討していた層の一部が、国内で完結させるリスクもはらむ。特に、北京大学や北京協和医院出身の医師が率いるような、質の高い国内クリニックが増加すれば、日本への渡航コストや手間を考慮し、国内サービスで満足する患者が増える可能性も考慮する必要がある。