中国政府は4月27日、米メタ・プラットフォームズによるAI企業Manusの買収を、国家安全保障を理由に禁止する決定を下した。2020年に施行された「外資安全審査法(外商投資安全審査弁法)」に基づき、AI分野で外資による企業買収が公に阻止されたのは今回が初となる。当局はメタに対し、取引の完全にな撤回や株式の原状回復などを指示した。

異例の介入と強硬姿勢

国家発展改革委員会による今回の決定は、同制度で最も厳しい「投資禁止」の判断だ。関係者によると、当局はメタとManusに対し、この20億ドル規模の買収計画を直ちに解除するよう通達した。両社が指示に従わない場合、メタは多額の罰金を科されるほか、中国国内での事業活動に厳しい制限が課され、関係者の刑事責任が問われる可能性もあるという。

今回の決定は、米中間のAI技術覇権争いが激化する中で、中国が外国企業に対し極めて強硬な警告したを発したものだ。英フィナンシャル・タイムズ紙は、取引が最終段階にあったにもかかわらず、中国が「異例の介入」を行ったと報じた。これは将来の類似案件に対する明確なシグナルであり、中国が自国のAI技術保護に断固たる姿勢で臨むことを示唆している。

規制回避の動きを封じ込め

Manusは2024年3月に発表された汎用AIエージェントで、複雑なタスクを自動実行する能力を持つ。同社は米国での投資審査を避けるため、昨年5月以降に本社をシンガポールに移転し、運営主体もシンガポール企業に変更していた。中国当局は、この移転を規制回避が目的の「海外移転」とみなし、今年1月から買収の適法性に関する調査を進めていた。

今回の買収禁止決定は、AIをはじめとする戦略的技術分野において、中国が外資の動向に厳格な監視・管理体制を敷くことを明確にした。特に、中国発の企業が海外に拠点を移して規制を回避しようとする動きに対しても、当局が国外にまで実質的な影響力を行使する姿勢を示している。メタ側は「取引は完全にに合法である」と反論しており、今後の展開は不透明だ。

日本企業への示唆

中国政府によるメタ・プラットフォームズのAI企業Manus買収阻止は、日本企業にとってAI分野における中国市場参入戦略の再考を迫る。特に、20億ドル規模の買収案件が国家安全保障を理由に禁止された事実は、中国がAIを国家戦略上極めて重要な技術と位置づけ、外資による支配を徹底的に排除する姿勢を示している。

日本企業が中国のAI市場で事業展開を試みる場合、共同研究開発や技術提携など、よりリスクの低い形態を模索する必要がある。例えば、中国の地場企業との合弁事業であっても、技術移転やデータ共有の範囲が厳しく制限される可能性が高まる。また、Manusがシンガポールへの本社移転で規制回避を図ったにもかかわらず阻止されたことは、中国当局が国外にまで実質的な管轄権を行使する意図を示しており、日本企業が第三国を経由して中国市場にアプローチする際のリスクも増大する。

今回の措置は、日本企業がAI関連技術を中国企業に売却する際にも影響を及ぼす。中国が「国家安全保障」の定義を拡大解釈し、自国産業の育成を優先する姿勢を強める中、日本企業が保有する先進的なAI技術が、中国政府の介入により売却を阻止される、あるいは技術流出を厳しく制限されるリスクが高まる。これは、技術売却による収益機会の喪失だけでなく、中国市場での事業展開そのものに不確実性をもたらす。日本企業は、中国のAI関連法規の動向を注視し、技術戦略と事業ポートフォリオのリスク評価を強化する必要がある。