2024年に入り、中国の製薬企業の海外進出が加速している。調査会社NextPharmaによると、2023年の中国発の革新的医薬品に関する海外ライセンス契約は157件、契約総額は1356億5500万ドルに達し、いずれも過去最高を記録した。3月には中国生物製薬が仏サノフィと大型契約を締結するなど、質・量ともに中国製薬業界のグローバルな存在感が高まっている。

なぜ今、重要か

中国製薬業界が「模倣薬(ジェネリック)」中心から「革新的新薬(First-in-class)」創出へと転換する歴史的な段階にあることを示す動きだ。米中間の技術覇権争いが激化する中でも、人々の健康に関わる医薬品分野では国境を越えた提携が活発であり、市場の特異性を浮き彫りにしている。この潮流は、世界の医薬品開発競争の構図を塗り替えるだけでなく、日本の製薬企業の提携戦略や研究開発の方向性にも直接的な影響を与えるため、その動向を注視する必要がある。

契約の「量」と「質」が過去最高に

2023年、中国の革新的医薬品の海外展開は力強い勢いを見せた。NextPharmaのデータベースによると、契約件数は157件、契約総額は1356億5500万ドルと、前年を大幅に上回り過去最高となった。陝西巨豊投資情報のシニア投資アドバイザーである于暁明氏は「昨年の最も顕著な変化は、散発的な契約から大規模で高額な契約への移行だ」と指摘する。

3月4日には、中国生物製薬 (Sino Biopharmaceutical) がフランスの製薬大手サノフィと、二重標的阻害剤「ロファクシチニブ」に関する独占的ライセンス契約を締結。これは中国企業による移植分野での海外ライセンス契約として過去最大規模となる。また、2月には達石薬業 (Transcenta Holding) が米バイオ企業とモノクローナル抗体「DS009」のライセンス契約を結ぶなど、大型案件が相次いでいる。

黒字化と自社展開、「3.0」時代へ

ライセンス収入の増加は、中国の革新的医薬品企業の財務状況を大きく改善させている。2023年の業績では、多くの企業が黒字転換を果たした。例えば、ベイジーン (BeiGene) の2023年の売上高は前年比40.4%増の382億500万元(約7800億円)に達し、純利益は14億2200万元(約290億円)と初の通期黒字を達成した。

栄昌生物製薬 (RemeGen) も、売上高が89.36%増の32億5100万元(約660億円)、純利益7億900万元(約140億円)で黒字化。三生国健薬業 (3S Bio) は米ファイザーとの契約一時金により、純利益が前年比317.09%増の29億3900万元(約600億円)に達した。于暁明氏は、こうした状況を「海外進出3.0」への移行段階と分析。トップ企業は海外に自社チームを構築し、提携を通じた進出から自社でのグローバル展開へと舵を切り始めている。

技術解説:First-in-classと提携モデルの高度化

中国製薬企業の躍進を支えるのは、技術力の向上だ。特に「First-in-class(画期的新薬)」や「Best-in-class(既存薬に対する優位性が明確な医薬品)」と呼ばれる新薬候補の創出能力が高まっている。これらは、世界で初めての作用機序を持つ薬や、既存の治療法を大幅に改善する可能性を秘めた薬を指す。

近年、中国企業は抗体薬物複合体(ADC)、二重特異性抗体、細胞・遺伝子治療といった最先端分野で成果を上げている。中国生物製薬の「ロファクシチニブ」は二つの異なる標的に作用する二重標的阻害剤であり、達石薬業の「DS009」は特定の分子を狙い撃ちするモノクローナル抗体だ。こうした高度な技術が、海外の大手製薬企業から高額な評価を受ける要因となっている。

提携モデルも、単に開発・販売権を供与する「ライセンスアウト」から、開発リスクや将来の利益を共有する「国際共同開発」や「利益分配型契約」へと高度化している。これは、中国企業が単なる技術の提供者ではなく、対等なパートナーとして交渉力を付けていることの証左である。

日本の関連性

中国製薬企業の海外進出加速は、日本にとって複数の具体的な影響をもたらす。まず、日本企業は中国企業との競合激化に直面する。2023年に中国の革新的医薬品の海外ライセンス契約が157件、総額1356億5500万ドルに達した事実が示すように、中国企業は単なるジェネリック医薬品製造から、First-in-class/Best-in-classの新薬開発へとシフトしている。これにより、日本企業が強みとしてきた高付加価値領域での優位性が相対的に低下する可能性がある。特に、中国生物製薬がフランスのサノフィと締結した移植分野での大型契約や、百済神州(BeiGene)がTislelizumabなどの主力製品で黒字転換を達成していることは、中国企業の開発力と商業化能力が飛躍的に向上していることを示唆する。

次に、日本企業は中国市場へのアクセス戦略を再考する必要がある。これまでライセンスアウトの主要な受け手であった中国企業が、自社でのグローバル展開に移行し、「海外進出3.0」の段階に入っているため、従来の提携モデルだけでは不十分となる。例えば、達石薬業(広東)が自社開発のモノクローナル抗体「DS009」の全世界での権利を米国のSlate Medicinesに供与する一方で、中華圏を除くという戦略は、中国企業が自国市場の重要性を認識しつつ、グローバル展開を進めるモデルを示している。日本企業は、中国企業との共同開発や、中国市場に特化した製品開発など、より戦略的なパートナーシップを模索する必要があるだろう。

出典・参考

  • [NextPharma] (2024-01) "2023 China Innovative Drug Licensing-out Report"
  • [財新網] (2024-03-05) "中国生物制药与赛诺菲达成革新药授权協力"
  • [BeiGene] (2024-02-27) "BeiGene Reports Fourth Quarter and Full Year 2023 Financial Results"